カタブツ竜王の過保護な求婚
「いえ、それはまだ……」
「まあ、さようでございますか。ですが、それもまた仕方ないのかもしれませんねぇ。アルクネトの大公さまはまだお若くていらっしゃるから。とても美しい姫君だそうですわ。妃殿下はお会いになったことがございまして?」
「……いいえ、ありません。男爵夫人は?」
「ええ、わたくしも……い、いえ。一度、遠くからだけ……。直接ご挨拶したことはなくて……」
一瞬、否定しかけた夫人はすぐに思い出したのか、もごもごと答えた。
しかし、すぐに気を取り直すように、こほんと一つ咳払いをする。
「新大公さまには兄君がいらっしゃったにもかかわらず、陛下が強引に……あら、いえ……とにかく、陛下が姫君に先代の後を継ぐようお命じになったのですよ。それが昨年のことですから、今回の騒動も、それを快く思わない者たちの仕業なのでしょう。アルクネトは人間の国ですのに、獣人の国であるユストリスの内政干渉に我慢がならないのですわ」
「――ですが、後継者問題については、長い間続いた隣国との国境紛争の軋轢を和らげるための措置ではないですか。しかも陛下は、弱体したアルクネトを併合することなく、未だに惜しみない援助を続けています」
最近始めた勉強で知ったことは驚きの連続だった。