カタブツ竜王の過保護な求婚

 フロメシア王国との間で起こった大きな戦にばかり目を向けていたけれど、それ以前からユストリス王国は人間たちが治める周辺諸国に惜しみない支援をしていたのだ。
 当然ながら、獣人ごときに援助されることを良しとしない者たちから、内政干渉だと反発する声も上がっているらしい。

 それでも、男爵夫人の不公平な言い方に、レイナは少々興奮して反論した。
 すると夫人は少し驚き、そして心外だという顔をした。


「誤解なさらないでください、妃殿下。今のは別に、わたくしの意見というわけではありませんのよ。皆が噂していることですわ。それに、アルクネトへの温情は特別なものですもの。よくわかっておりますわ。その理由も」

「……理由?」

「ええ。陛下は……というよりも、王太子殿下はアルクネトにかなり思い入れがあるようですから」


 レイナは訳がわからず、眉を寄せた。理由も何も、全てが初耳だ。
 その様子に、今度こそ夫人は驚きを見せた。


「まあ、ご存じありませんでしたか? 王太子殿下とアルクネト新大公さまは幼馴染でいらっしゃるのですよ。殿下はアルクネトに遊学なされていましたし、逆にアルクネトの情勢が不安定になってからは、姫君がこの王城に滞在なされていたそうですから。とても仲がよろしかったようで、今回もわざわざ殿下御自らお出ましになられたのも、幼馴染の窮状を放っておけなかったのでしょうねえ。口さがない者たちはお二人のことを――」


 そこまでつらつらと述べて、男爵夫人ははっと口をつぐんだ。誰を相手に話していたか思い出したようだ。そろりとレイナを窺う。
 レイナは笑みを浮かべることも忘れて呆然としていた。

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