カタブツ竜王の過保護な求婚
「妃殿下はフロメシアの王女様でいらしたのに、ずいぶんユストリスに肩入れされるのですね」
「今はユストリスの王太子妃です。それに、何事にも客観性は大切でしょう?」
「そうですわね。妃殿下のおっしゃる通りです。ですが、それはこちらの言い分。非はユストリスにあると、獣人たちを追い出すために賛同者を募り、新たな戦いを企てている者たちがいるらしいのです。彼らが立ち上がるのも、もはや時間の問題かと」
「……まさかまた戦を?」
厭な言葉がずしりと体に圧し掛かる。
触れてはならないもののように、レイナは恐る恐る繰り返した。
「はい。アルクネトの暴動といった生易しいものではないようです」
「それならば、もうすでに陛下のお耳には届いているのではないでしょうか? 戦後の交渉は終わったとはいえ、フロメシア内部での厭な噂はちらほらと届いておりましたし」
「残念ながら、陛下は存じません。おそらく他の誰も」
「……それほどの情報をなぜ男爵夫人が? しかも、確かな情報ならば、私ではなく陛下にお知らせするべきでしょう?」
不審を滲ませるレイナの問いに、夫人はかすかにためらい、答えた。
「わたくしの従姉はフロメシア北部の貴族に嫁いでいるのです。その従姉から最近になってできるだけ早くユストリス王城から、王都から離れるようにと手紙が届きました。それ以上の詳しいことはまだわかりませんが……。陛下にお伝えしようにも、今はお会いすることも叶わない状態ですから」