カタブツ竜王の過保護な求婚
動き出した陰謀
1
その夜、レイナは王妃と晩餐を楽しんだ後、自室へと回廊を進んでいた。
カインから手紙が届いた喜びはまだ消えず、先ほどは王妃に優しくからかわれたほどだ。
姑である王妃は、レイナをジェマと同じ、本当の娘のように接してくれる。
つくづく自分の幸運を噛みしめていたところに、甲高い声が聞こえ、一気に現実へと引き戻された。
声をあげて駆け寄ってくるのは、モレト男爵夫人だ。
「妃殿下!」
以前呼び止められたときとは違い、今の夫人はかなり切迫していた。
「男爵夫人? いったいどうなされたのです?」
息を切らす夫人に、訝しげに問いかける。しかし、夫人はすぐに答えることはなく、辺りをきょろきょろと見回すと、声をひそめた。
「急ぎお知らせしたいことがあります。ですが、ここではなく、どこか人気のない場所でお聞きしていただきたいのです」
男爵夫人がこれほどに慌てるのならば、知らせたいこととは一つしかないだろう。レイナは嫌な予感に背筋が冷たくなった。
それでも、この時間に人気のない場所に移動することはためらわれた。
「妃殿下、お早く! この国の大事になるかもしれないのですよ!」
もどかしげに夫人が急き立てる。わずかに迷ったものの、アンヌとラベロ、護衛騎士の二人を連れて、レイナは夫人の後を追った。