カタブツ竜王の過保護な求婚
「そんな……火を放つなどと……」
あまりの非道さにレイナはぶるぶると震えだした。それは恐怖ではなく、怒りため。
だが、男爵夫人は勘違いしたようだ。
「恐ろしく思われるのは仕方ありませんわ。フロメシアの王宮でぬくぬくとお育ちの妃殿下には、このようなお話は慣れていらっしゃらないでしょうから。しかも、明日の夜にはこの城も占拠されるかもしれませんしねえ」
「それは、いくらなんでも……そんなに簡単にいくわけは……」
この城は通常ならばあらゆる門扉が解放され、出入りも容易いのだが、元来は侵入者を防ぎ追い払うために造られた城塞だった。
始まりはあの恵みの園を囲む土壁だけだったものが、街が大きくなるにつれ、もっと広く高い壁が新しく作られていったのだ。
セロナムの街は、何重にもなった防壁に囲まれており、王城内だけでも一番外側から恵みの園の土壁まで数えて四つある。
「確かに、外側から攻めるだけでは難しいでしょうが……」
「まさか……」
レイナは夫人の言外に含まれるものに気付いて青ざめた。
城内にも潜んでいる者はいるのだ。それも、おそらく多数。
「ですが、妃殿下なら、この暴動を止めることができるかも知れません」
「……私に? どういうことです?」
唐突な言葉にレイナは眉をひそめ、問い返した。それほどまでに計画されたものを、止められるとは思えない。