カタブツ竜王の過保護な求婚


「すごい……立派な牆壁ね……」


 車窓にかかったビロードのカーテンをそっと開け、外の様子を覗いたレイナは感嘆して呟いた。
 車外の雰囲気から街が近いことに気付いたのだ。

 レイナの乗った四頭立ての馬車の車体には、最高級の無垢材を使用しており、クッションのきいた座席には、カーテンと同じ深紫のビロードが張られ、とても座り心地が良い。
 それでもこれまでの道中での馬車の揺れは体に負担が大きく、この旅に付き従っている者たちはさぞかし大変だろうと心配もしていたのでほっとした。

 小さな窓から見えるのは、王都を囲む牆壁に出入り口となる外門。
ユストリス国内にはたくさんの要塞都市があり、王都は特に大きいと聞いてはいたのだが、さすがに これほど大きく立派な牆壁を構えているとは思っていなかった。

 それだけ昔は人間からの迫害が強かったのだろう。
 獣人と呼ばれる種族は人間と同じように遥か昔からこの世界に暮らしてきたのに、圧倒的多数の人間からいつしか差別されるようになったらしい。

 それはおそらく人間にはない獣人の力――虎人や犬人には鋭い牙、鳥人には空を飛ぶ翼、熊人には強い力、そして皆に共通する鋭い爪を畏れたのだ。
 ユストリスに数多くある要塞都市は、人間から迫害を受けた獣人たちが身を寄せ合い、お互いを守るために築かれた街である。
 それらの街が人間の住みにくい北の大地に築かれ、街同士もまた助け合い、交流していくうちに生まれたのがユストリス王国だった。

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