カタブツ竜王の過保護な求婚
気付いた時には遅かった。アンヌは羽交い締めにされ、首元にナイフを突き付けられたのだ。
「アンヌ!」
レイナは悲鳴じみた声をあげ、立ち上がった。
ラベロも悔しそうに歯をぎりりと噛みしめている。ラベロが守るべきはレイナであり、七人の騎士を前にして、アンヌにまで意識を向けるのは不可能だった。
「レイナ様、ご心配には及びませんわ」
アンヌは何でもないと言うように、いつものお姉さん風の笑顔を浮かべたが、その声はかすれていた。きつく体を押さえられているせいだろう。
「さて、無駄な会話で少々遅くなってしまいましたが、妃殿下にはわたくしどもと一緒に来ていただきましょうかね」
「いいえ!」
きっぱり拒絶したのはアンヌだ。すぐにうっと声を詰まらせたが。
「アンヌ!」
叫んだレイナは、今までになく強い眼差しで夫人を睨みつけた。
「もし、アンヌに……ラベロにだって、怪我をさせてごらんなさい。絶対に許さないんだから!」
「まあ、怖い。妃殿下のお怒りを買ってしまったわ」
わざとらしく身を震わせてから、夫人は微笑んだ。
「もちろん、妃殿下がわたくしどもに従ってくだされば、二人が血を流すことにはならないと思いますよ。ええ、老いぼれ騎士様には、その錆ついた剣を手放していただかないとなりませんけどねえ」
その言葉に反論したのは、夫人の仲間である騎士の一人だった。