カタブツ竜王の過保護な求婚
3
「ところでランタンは持っているのかしら?」
「ええ、もちろん用意してございますが?」
回廊を進みながらの突然のレイナの問いに、夫人は訝しげに答えた。
晩餐の時刻もとうに過ぎた城内は、眠りに落ちる前の穏やかな静けさに満ちている。
時折すれ違う政務官や下働きの者たちは、遅い時間に現れた王太子妃の存在に驚きながら道を開けていたが、お付きの者や騎士をしっかり従えていることに安心して、不審に思うことはなかった。
「宝物庫はお城の外にあるのよ。だから、ランタンが必要なの。真っ暗な中を歩くのは危険でしょう?」
「そんなことくらいわかっているわ。あなたじゃないと入れないってこともね」
「あら、そう」
あっさり答えながらも夫人たちの勘違いを正すことはなかった。
あの〝恵みの園〟のことを言っているのなら、夫人たちは真実を知れば怒るだろう。
そのときのことを考えて、レイナの心は沈んだ。
できれば、あの素敵な場所に、夫人たちを連れて行きたくない。
それでもこの状況を打開するには仕方なかった。
肩越しに後ろへ目を向ければ、アンヌにはさり気なさを装って騎士が側を歩き、目立たないように未だナイフを突き付けている。その数歩後ろには、剣を取り上げられたラベロが三人もの騎士に囲まれていた。
今、大声をあげて逃げだせば助かるかもしれない。――レイナだけは。ひょっとしてラベロも。だが、アンヌは……。
そう思うと、レイナには何もできなかった。