カタブツ竜王の過保護な求婚


「ところでランタンは持っているのかしら?」

「ええ、もちろん用意してございますが?」


 回廊を進みながらの突然のレイナの問いに、夫人は訝しげに答えた。
 晩餐の時刻もとうに過ぎた城内は、眠りに落ちる前の穏やかな静けさに満ちている。
 時折すれ違う政務官や下働きの者たちは、遅い時間に現れた王太子妃の存在に驚きながら道を開けていたが、お付きの者や騎士をしっかり従えていることに安心して、不審に思うことはなかった。


「宝物庫はお城の外にあるのよ。だから、ランタンが必要なの。真っ暗な中を歩くのは危険でしょう?」

「そんなことくらいわかっているわ。あなたじゃないと入れないってこともね」

「あら、そう」


 あっさり答えながらも夫人たちの勘違いを正すことはなかった。
 あの〝恵みの園〟のことを言っているのなら、夫人たちは真実を知れば怒るだろう。
 そのときのことを考えて、レイナの心は沈んだ。

 できれば、あの素敵な場所に、夫人たちを連れて行きたくない。
 それでもこの状況を打開するには仕方なかった。
 肩越しに後ろへ目を向ければ、アンヌにはさり気なさを装って騎士が側を歩き、目立たないように未だナイフを突き付けている。その数歩後ろには、剣を取り上げられたラベロが三人もの騎士に囲まれていた。

 今、大声をあげて逃げだせば助かるかもしれない。――レイナだけは。ひょっとしてラベロも。だが、アンヌは……。
 そう思うと、レイナには何もできなかった。


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