カタブツ竜王の過保護な求婚
「妃殿下? このような時間にどうなされたのですか?」
扉を守る兵の驚く声が辺りに反響する。
「ごめんなさいね。モレト男爵夫人が急きょ領地にお戻りになることになってしまったの。それで、その前にぜひここを見てもらいたくて」
この恵みの園をレイナが大切に思っていることを知っている兵は納得して、夜には施錠している扉を開けた。
扉を抜けるとまず目にする大きな常緑樹。ここの木々たちは夜でもとても穏やかで優しく見える。
「……本当にここに?」
「ええ、もう何度も言うけど、本当よ。この木々たちはユストリス王家の祖先たちが種を植え育てたものなの。最初は大変だったらしいわ。なかなか育たなくて――」
「そんなことはどうでもいいの! 早く宝物庫へ案内なさい!」
のんびりとした説明を夫人は苛立って遮った。どうやら偽騎士たちも同じらしく、焦れているのがわかる。
我慢強いアンヌが思わず顔をしかめるほど、偽騎士は強く腕をつかんでいるようだ。
扉から離れるのは心細かったが、まだその時ではない。
レイナは諦めて口を閉ざし、奥へと進みながら周囲を視線だけでこっそりうかがった。
普段から姿を見せない守護兵たちは、今もいるのだろうか? そしてこの状況をどう判断しているのだろう?
よくわからないレイナには、とりあえず目立つ場所で行動を起こさなければならなかった。できるだけ大げさに。