カタブツ竜王の過保護な求婚
浅い呼吸を繰り返しながら、息が洩れ漏れないようにとスカートで口を覆う。
あちこちを引っかけたドレスはきっとぼろぼろだろう。
またアンヌに叱られてしまう。またあの小言を聞きたい。
アンヌもラベロも絶対に無事だと自分に言い聞かせ、レイナはゆっくりと深呼吸をした。
冷静になって、状況を見極めなければならない。気配を探って、安全だと確信できるまで隠れていなければ。
夜明けまで、どれくらい時間はあるのだろう? 反乱を食い止めるだけの時間はある?
王都は間に合うかも知れない。だけど、南部地方は?
めまぐるしく回転するレイナの頭の中に、小さな警告音が響いた。
息をのんで身構えると、忙しない足音が徐々に近付いて来る。
動くこともできず、精いっぱい目を凝らしても、顔が見えない。
ただ、その手に抜き身の剣を握っていることだけがわかった。
守護兵なのか、偽騎士なのか。
闇の中で鈍く光る剣。荒々しい男の呼吸。
体の震えが大木に伝わり、男に気付かれてしまうのではないかと怖くて、必死に抑えようとしても止まらない。
男はレイナの隠れる木の真下まで来ると、立ち止まった。
(――見つかる……)
レイナがそう覚悟した時、ざあっと強い風が木立の間を駆け抜けた。
突風が過ぎ去ると、男はとっさに覆っていた目から手を離して舌打ちした。
未ださわさわと揺れる梢がレイナの震えを隠し、葉擦れの音が乱れた息をかき消してくれる。