カタブツ竜王の過保護な求婚
次第に遠ざかる男の気配に、こわばっていた体から力が抜けていった。
(大丈夫。絶対に大丈夫)
太い幹に体を預け、目を閉じて呪文のように繰り返すと、本当にそうなのだと思えた。
その時、ひときわ大きな音が耳に飛び込んできた。
聞こえるのは大人数のしっかりとした足音と誰かの号令をかける野太い声。
そして――。
「レイナ!」
まさかと思った。夢ではないかと。
彼が騒動に気付いて来てくれた助けの中に、いるはずなんてないのだ。
アルクネトは遠いから。暴動だって治まっていないはずなのに。
それでも――。
「レイナ!」
先ほどよりもはっきりと聞こえた呼び声。
もしかしてと思った。現実かも知れないと。
カインが助けに来てくれた。名前を呼んで捜してくれている。
不安定な木の上からそっと身を乗り出すと、梢の間に揺れる淡い光が見えた。
ランタンを持つ大きな手。柔らかな光に照らされた青色の髪。
間違いない。ずっとずっと会いたいと、強く望んでいた人。
「カ、カインさま……」