カタブツ竜王の過保護な求婚
レイナが決意を固めた時、男が再び突き付けた剣をわざとらしく動かして、笑みを含んだ声で告げた。
「んじゃ、金貨五十枚入れた袋を、鞍の両脇にそれぞれに括りつけた上等な馬を三頭、急いで用意しな」
「……わかった」
カインがまた左手を振ると、数人が出口に向けて走り出す。
「ええ? どうせなら、もっともらおうぜ」
「欲を出すな。あまり多いと馬の足が鈍る」
下男風の男が不満を口にしたが、男がすぐにたしなめた。
それでも交渉がすばやく済んで安心しているのか、男の腕はわずかに弛んでいた。
見つめ合ったままのカインの瞳から、レイナは視線を外し、アンヌとラベロに向けた。
二人はできる限りレイナの近くにいてくれる。しかも、アンヌの足元には誰かの剣が落ちていた。
(――絶対に大丈夫)
レイナは落ち着こうと、一度大きく息を吐き出し、二人からカインへと視線を戻して緊張に震える声を出した。
「カイン様、あの朝はちゃんとご挨拶もせずに申し訳ありませんでした」
「いや、驚きはしたが、楽しかったよ」
突然の謝罪に皆は訳がわからないといった様子だった。
だがカイルとラベロにはわかったようだ。
「それでは今も楽しんでいただけると嬉しいです」
そう告げるが早いか、レイナは剣を握った男の腕を両手で力いっぱい押してわずかな隙間から勢いよく屈んだ。