カタブツ竜王の過保護な求婚
「なっ――⁉」
驚く男の声を耳にしながら落ちていた剣を拾い振り返って構える。
そんなレイナにもう一人の男から小さなナイフが飛んできたが、それを払い落したのは大きな翼だった。
甲高い悲鳴はおそらくアンヌのもの。
レイナは一瞬にして大きな獣の足に摑まれて空へと舞い上がっていた。
驚いたレイナは自分を摑んでいる獣の足から視線を辿り、全体の姿を目にしてさらに驚いた。
予想していたのは大きな鷲のような鳥。
だが鋭い爪でレイナを傷つけないように包んでいる足の先も身体全体も青い鱗で覆われている。
その姿はこの世界の者たちが幼い頃からあちらこちらで目にする絵画のまま。
太陽神と大地神の世界創造の神話の中で、神たちを手助けした存在として描かれる伝説の竜そのものだった。
「……カイン様?」
神話の中から出てきたような竜に摑まれ空を飛んでいるというのに、レイナは不思議と恐怖は感じなかった。
それどころか、たった今まで目の前に人間の姿でいたカインだと直感でわかったのだ。
ただどこまで飛んでいくのだろうと思っていると、カインとレイナの部屋の前のバルコニーが見えてきた。
そのまま竜はバルコニーへそっとレイナを下ろすと、再び空へと舞い上がる。
「カイン様!」
レイナが必死に呼びかけると、青い竜は一度振り返り、そしてまた恵みの園の方角へと飛んで行ってしまった。