カタブツ竜王の過保護な求婚
伝説の竜王


 レイナが部屋から出て広間に向かう間も城内も騒然としており、武装した兵士たちが駆けまわって事件の後始末に追われていた。
 そんな中でレイナに気付く者は少ない。

 レイナは邪魔にならないように正面広間の隅に立って、カインが戻ってくるの待っていた。
 するとちょっとした歓声が起こり、広間へとカインが入ってきた。
 人々は喜びと安堵に顔を輝かせて道をあけている。


「カイン様!」


 声をかけられずにいたレイナの存在に気付いたように、カインがまっすぐにレイナを見た瞬間、騒がしい広間の中でもひときわ高い声が響いた。


「カイン様、ご無事だったのですね!」


 人目も憚らず、カミーラはカインへと駆け寄り抱きつこうとした。
 そこで衣服についた血痕を目にしてはっと顔色を変え、大げさに騒ぐ。


「まあ! カイン様、お怪我をなさったのですね! 何てことかしら!」

「いや、これは――」

「妃殿下のせいですね⁉ 妃殿下が不用意にも謀反人に誑かされ外へと出てしまったから!」

「いや、違う。レイナのおかげで――レイナがこの城に入り込んだ叛乱人に気付いて知らせてくれたから、暴動を未然に防ぐことができたんだ。でなければ明日の朝には王都のあちらこちらで火の手が上がっていただろうな」

「ま、まあ、そんな……」


 カミーラは顔色を悪くし言葉を詰まらせたが、レイナのほうへ厳しい視線を向けた。
 どうやらレイナがいたことには気付いていたらしい。


「今まで妃殿下がいらっしゃるまでは平和でしたのに……」

「そっ――」


 あまりの言い様にノーラが抗議しようとして、カインに手で制される。
 だが今の言葉は広間にも広がり、皆がざわつき始めた。


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