カタブツ竜王の過保護な求婚

 本当はすごく怖かった。
 フロメシアの宮殿を発つ時には不安で、ユストリスの王太子妃となる自信がなくて、カインに冷たくされて傷つき、嫉妬で心が引き裂かれそうなほどに苦しんで、夫人たちに捕らわれたときはとても恐ろしかった。

 それでも我慢していたのだ。
 笑顔を絶やさず頑張れば乗り切れると。
 ふと気が緩んだ瞬間、ぽろりと涙がこぼれた。
一度溢れてしまうと、止めようとしても止まらない。


「ごめん、なさい……わたし……」

「いいんだ。レイナは泣いていいんだ」


 謝罪するレイナを胸に抱き寄せて、カインは子供をあやすように背中をぽんぽんと叩く。
 大きく温かな腕の中は安心できる。
 ようやくレイナが落ち着いたときには、フィルの姿はどこにもなかった。


「――あいつは気を利かせて出ていってくれたよ」

「も、申し訳ありません」

「謝る必要はないよ。そもそもフィルが同席したこと自体が邪魔だったんだから」

「それは……」


 肯定するべきなのか否定するべきなのかレイナが悩んでいると、カインのくぐもった笑い声が聞こえてきた。
 腕の中にいるせいかカインの笑い声が直接伝わってくる。


「すまない、戸惑うレイナが可愛すぎて」

「え……」

「はあ、可愛い。本当にレイナは可愛い」

「カイン様⁉」


 今までとはあまりに違うカインの態度に、レイナは驚いた。


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