カタブツ竜王の過保護な求婚
しかし、馬車が止まってからなかなか扉は開かれない。
(ひょっとして、今になって私じゃダメだってなったんじゃ……)
もしここで引き返すことになれば恥をかくどころか、今以上に蔑まされてしまう。
同じ蔑まれるのなら、せめてフロメシアの役に立ったほうがいい。
この縁談が破棄され、また多額の賠償金を負うよりも悪いことはないのだ。
ユストリスでのレイナの立場が悪いものであったなら、ローラたちには精一杯のお金を渡して国に帰ってもらおう。
レイナはどうにかユストリス側――王太子に縁談を受けてもらわなければと、そのためにはどんなことでもしようと覚悟を決め、改めて背筋を伸ばした。
ようやく扉が開かれる音がする。
外から爽やかな風と同時に懐かしい香りがふわりと匂いレイナはアデル夫人の教えも忘れてつい首を伸ばして外へと目を向けた。
すると扉正面に立っていた人物が頭を下げた。
さらりと柔らかく揺れた髪は、どこまでも澄んだ空のような青い髪。ゆっくりと上げた端正な顔立ちの中で静かに燃えているのは金色の輝く瞳。
まるで神話の中から現れた太陽神のような青年の登場に、ノーラとアンヌだけでなく、アデル夫人までもが息をのんだ。