カタブツ竜王の過保護な求婚
ただ一人、レイナは目をそらすことなくじっと見つめていた。
美しさならルルベラで慣れているのに、怖いほどに惹きつけられてしまう。
「フロメシアの姫君、ようこそ我が国、ユストリスへ。私はユストリス王国王太子カインと申します」
「それでは、あなたが……」
馬車から降りるために差し出された手を、レイナは無意識に取り、呆然とカインを見上げて呟いた。
「……ええ、あなたの婚約者です」
カインはうす暗い馬車の中から降り立ったレイナの顔――茶色の瞳を目にして、わずかに眉を寄せたように思えたが、一瞬後には何事もなかったような表情でうなずいた。
長身であるためか、カインはすらりとした印象ではあるが、すぐ側に立てばがっしりとした体つきであることがわかる。その上、彼女の手に添えられている左手も容姿に似合わずかなりがっしりとしている。
(殿下は何の獣人なのかしら……)
ふわふわのしっぽもなければ耳もない。
ひょっとしてフィルのように翼が生えて空を飛べるのかしら、などとぼんやり考えているうちにカインは手を離し、すたすたと歩き始めた。
つられてレイナも城の中へと歩を進める。
その時――。
「姫様!」
強い口調でアデル夫人に呼び止められ、レイナは「あら……」と我に返ったような声を漏らして、足を止めた。