カタブツ竜王の過保護な求婚
獣人は鼻がきくだけでなく、感情の変化にも敏感なのだ。
そんな浮かれた雰囲気の中で、すぐ側で嫁入り支度を見守っていたアデル夫人がこほんと一つ咳払いをすると、途端にレイナだけでなくメイドたちまで慌てて口を閉ざし背筋を伸ばした。
猫の獣人であるメイドはしっぽをぶわっと広げてはいるが、表情に感情は表れていない。
アデル夫人は明らかに獣人たちを嫌悪している。
ただ花嫁であるレイナが夫人を苦手としていることもわかっていたので、メイドたちは反感を持ちながらも態度には出さなかった。
(あと少し、あと少しの我慢よ)
レイナはいつもの呪文を心で唱えながら、黙ってされるままになった。
この呪文とも、あと少しでおさらばなのだ。
夫となる王太子殿下――カインの本当の姿は未だに知らない。
それとなくメイドたちに訊いても、ぼやかして答えてはくれず謎は深まるばかり。
普通ならばそのことに恐れを抱くのかもしれないが、レイナはいつか知る機会を楽しみに待つことにしていた。
カインはきっと、レイナを信用してくれたときに打ち明けてくれるだろう。
あの出迎えてくれた日より今日まで一度も顔を合わせてはいないが、初対面の時に見せてくれた優しい気遣いを思えばこれから始まる結婚生活を前向きに考えることができた。