カタブツ竜王の過保護な求婚

「いいえ、大丈夫です! 元気です!」

「そうか」


 応えてカインは小さくうなずいた。
どうやらそれほど酷い失敗ではなかったようだ。

 ほっとしたレイナは、次にどうするべきか必死に考えた。夫人は何と言っていただろうか。
 良き妻とは……夫に安らぎを与えるものである。だった?


「あ、あの、カイン様はお疲れですよね? お茶でも淹れましょうか?」


 茶葉によっては心身の疲れをほぐす作用のものもある。
花嫁教育でみっちり仕込まれた茶葉の種類と効能を必死に頭の中に浮かべてみるが、緊張してしまってちっとも思い出せない。


「いや、私は大丈夫。それよりも、あなたこそ疲れただろう? 慣れないことばかりで」

「い、いいえ」


 優しい気遣いが嬉しくて、顔をほころばせかけたレイナだったが、慣れていないと、もうばれてしまったのかと気付いて焦る。


「ユストリスとフロメシアでは作法が違うだろうし、今日は長い一日だったから」


 カインはそっけなく言うと、窓際へと近付いてカーテンをわずかに開き、暗闇に沈む庭を見下ろした。
 続く沈黙の中で、これからどうすればいいのだろうと立ちつくすレイナに、カインは振り向いて長椅子を手のひらで示した。

 座るように促されているのだと判断して、素直に従う。
 窓に背を預けたカインは、その様子をじっと見つめ、ようやく口を開いた。


「休む前に少し話がしたい」

「はい」


 かすれた声で答えたレイナは、膝の上でぐっとこぶしを握り締め、緊張して待った。


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