カタブツ竜王の過保護な求婚
2
アンテルシア大陸において、長い歴史と広大な国土を誇るフロメシア王国。
王都フリシアの中央には、高い城壁に囲まれた、フロメシア王の住まう宮殿がある。
そこでは、数々の庭が競い合うように華やかな色彩を輝かせているのだが、なかでも王のお気に入りは、王族たちの私的空間である奥宮にある中庭だった。
「まさかこのように素晴らしい場所にお誘いいただけるとは、嬉しい限りでございます」
目に眩しいほどに光る新緑、色とりどりに咲き乱れる花々に囲まれ、ひっそりと建つ東屋で、勧められた椅子に腰をかけた青年が、謝辞に添えて感嘆の思いを口にした。
しかし、その優しげな笑みにはどこか油断ならないものが感じさせられる。
向かいの席に着いたこの王宮の主である現フロメシア王ラクスもまた、にこやかな笑みに全てを隠してうなずいた。
「気に入っていただけたようでよかった。ここは特に余が好んでいる場所で、立ち入る者も少なくゆっくりできる。貴殿とも本音で話せると思ってな」
「……この度の条約ではご納得いただけませんでしたか?」
穏やかに問いかけて、青年はお茶の入ったカップを口へ運んだ。
交渉に臨む上で一番まずいのは冷静さを失うことだ。その点、この青年――ユストリス国王太子付秘書官であるフィルは、この場にもってこいの人物だった。それ故、特使として派遣されたのだ。
「いや、我々の行いを顧みれば寛大なほどだと思う」
「――しかし?」
相変わらず笑んだままのラクスを直視することなく、フィルは曖昧な返答の先を促した。