カタブツ竜王の過保護な求婚

 いったい何の話だろうか。ここはやはり、カインの妻としての心得などだろうか。今も国同士の作法の違いに触れたばかりなのだ。
 しかし――。


「はっきり言って、私はこの婚姻を本物にしたいとは思っていない」

「……はい?」


 まったく予想していなかった言葉に訳がわからず、レイナは首を傾げた。


「ユストリス国内では今、先の戦のせいで人間たちへの反感を持つ者が増えている。しかも南では未だにフロメシア王国の人間たちが入り込み、不穏な動きをしているらしい。そこでフロメシアの王女と結婚すれば、獣人と人間――お互いうわべだけでも仲良くできるのではないかと受け入れただけだ。よってこれが普通の婚姻だとは思わないでほしい。世情が安定すれば離縁するつもりだ」


 レイナは予想外の状況に驚いて目を丸くしていた。
 一気にまくし立てたせいか、カインは気持ちを落ち着けるように大きく息を吐き出す。


「あなたもこんなことに巻き込まれて気の毒なことだ」

「――気の毒……」


 レイナは冷たく発せられたカインの言葉を、ぼんやりと繰り返した。
 頭の中では色々なことがぐるぐるとまわって、まともに考えられない。ひょっとしてこれは冗談か何かではないかとすがるように見上げたが、美しい金色の瞳をとらえることはできなかった。


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