カタブツ竜王の過保護な求婚
「人間のあなたには不快なことも多いだろうが、しばらくは我慢してほしい。この城ではできるだけ好きなように過ごしてくれてかまわない」
カインは背を預けていた窓から体を起こし、最後にそう言い残して自室へと向かった。
すぐに二人の部屋を隔てる扉が静かな音を立てて閉まる。
長椅子に座ったままうつむいたレイナは、長い毛足の美しい絨毯を見つめた。だが、その瞳に映っているのは、華やかな模様ではなく、遠いあの日――。
『まあ、レイナ様はまた部屋を抜け出してしまったの?』
『そうなのよ。みんなで手分けして捜しているのに、見つからなくて。本当に迷惑だわ』
『だけどレイナ様はお気の毒な方だもの。まさかお母様が亡くなられた途端に、お父様だと思っていた伯爵様から捨てられることになるなんてねえ』
『あら、捨てられるだなんて。王宮に……本当のお父君でいらっしゃる陛下に引き取られるんだもの。これからはお姫様よ』
『今まで見向きもされなかったお姫様に?』
『それはここでも同じじゃない。お気の毒なレイナ様』
『お気の毒なお姫様』
隠れていた中庭の生垣の中で聞いてしまった侍女たちの会話。
〝お気の毒〟だと言いながらも、楽しそうに笑っていたのだ。
――わたしはお父様に捨てられる……。
あの時の悲しみが、今さら涙となって込み上げてくる。