カタブツ竜王の過保護な求婚
3
「あら、あの方はどなただったかしら?」
「まあ、王太子妃殿下じゃない。忘れてしまったの?」
わざと聞こえるようなひそひそ話とくすくす笑いが耳に届く。
それでもレイナは、背筋を真っ直ぐに伸ばして案内された席に着いた。
王妃主催のお茶会で、嫌みな令嬢たちの声を無視し、笑顔でそつなくやり過ごすことも王太子妃として求められる能力らしい。
いわゆる〝女の世界〟はレイナの超苦手とするものなのだが、人間でも獣人でもこういうものは何も変わらないことにがっかりしていた。
結婚式から一か月。
始めての夜に、夫となった王太子――カインに拒絶されてから、彼とはまともに顔を合わせていない。
つい先日の公式晩餐会でもカインは王都近郊の視察を理由に欠席しており、それまでひそやかに囁かれていた不仲説が一気に広まっていった。
――王太子殿下は、ご結婚なされたことをお忘れになっているのでは?
そう噂されるほど、カインは王城を留守にすることが多く、出かけていなくても深夜まで執務室にこもっている。