カタブツ竜王の過保護な求婚
レイナは唇をとがらせ、みんなを見回してから、しょんぼりとうつむいた。
「もう、限界なのよ……。だから一度だけでいいの。一度だけでいいから、この国の騎士……を相手にするのは当然無理なこともわかっているから、せめて騎士見習いの少年たちと一緒に剣の稽古をして気分転換をしたいの……」
肩を震わせ、涙声で懇願するレイナを前にして、ダメだとはとても言えなかった。
昔は元気良く故郷の森を駆け回っていたレイナが、宮殿に引き取られてからはそれまで以上に肩身の狭い思いをして暮らしていたのだ。
そんなレイナの息抜きが庭仕事に兄との遠乗り、そして剣の稽古だった。
だが今は王太子妃として見知らぬ城でおとなしく過ごしている。
その上、夫である王太子からは無視をされ、ライバル女性まで出現したのだ。
何もできない自分に歯がゆい思いで見守るしかなかったラベロと、もう一人の近衛騎士は、これで少しでもレイナの気分が良くなるなら、とうなずいた。
瞬間、アンヌが止めに入ったが、時すでに遅し。
「待って、ラベロさ――」
「二人とも、ありがとう! じゃあ、さっそく明日の朝にお願いするわ! 騎士見習いの服は借りられるかしら? だめだったら、新米だってことでフロメシアで着ていた物でいいわよね? ちゃんと嫁入り道具として持って来ているから大丈夫よ!」
「いつの間に……」
呟いてアンヌは顔をしかめた。
嫁入り道具の最終点検は彼女がしたのだ。
ラベロたち近衛騎士は、レイナの勢いに押されてただ唖然としている。
「また騙されてしまいましたねえ、本当にあなたたちは甘いんだから」
ノーラはやれやれと首を振って、その場を離れていく。
レイナも軽やかな足取りで着替えのために衣裳部屋へ向かい、肩を落とした近衛騎士たちは、明日の準備のために部屋から出て行った。