カタブツ竜王の過保護な求婚
伏せていた顔を上げながらも、レイナはさりげなくカインから目立たない位置へと移動した。
ばれたらどうしようと心臓はばくばくしているし、顔は紅潮している。
ただ他の見習いたちも王太子の面前だからか、今までよりも顔は赤く動きもぎこちなかった。
そのため、騎士たちから叱責が飛ぶ。
「お前たち、しっかり集中しろ!」
「はい!」
見習いたちと同じように、気持ちを引き締め直したレイナが目の前の少年に小手を決めた時、組手交代の笛の音が聞こえた。すると、レイナの前に模擬剣を持ったカインが現れた。
「新入りか?」
「……はい」
顔を伏せたレイナに、カインが問いかける。その声はまるでおもしろがっているようだ。
まさかと思いつつ剣を構え、合図と共に打ちかかる。
こちらは本気でかかっているのに軽くいなされ、まったく歯が立たないのが悔しい。
「――あっ!」
何度か打ち合っているうちに、ついにレイナの右手から剣が払われ、からりと音を立てて地に転がった。
一瞬の沈黙の後、時を告げる鐘が鳴り響く。
「あ、ありがとうございました!」
「……ああ」
膝に頭がつくぐらい腰を折ったレイナに、カインが一歩近付いた。
「失礼しますっ!」
カインに口を挟む隙を与えず、レイナは急いで落ちた剣を拾い上げ、駆け出した。