カタブツ竜王の過保護な求婚

「いい加減に、その鬱陶しいため息はやめてください」


 秘書官のフィルが眉間にしわを寄せて言った。が、そんな苦情も右から左に、カインはもう一度深くため息をついた。
 カインは後悔していたのだ。あの初めての夜のことを。

 レイナのためだと無理に冷たくしたが、傷ついた彼女の顔が頭から離れないのだ。
 戦後交渉のために全権を委ねていたフィルが獣の――鷲の姿で戻ってきたときには交渉が決裂したのかと考えた。

 次に交渉の席に出るべきではないラクス王からの申し出を知り、腹を立てた。
 あれほど譲歩したにもかかわらず、さらに人間はずうずうしく求めるのかと。
 確かに賠償金は今のフロメシアには賠償金はかなりの負担だろう。

 今回の戦がラクスたちの暴走であることはわかっていたため、罪のないフロメシアの民たちに負担を課すのはカインたちも心苦しかった。
 しかし、それこそ何の罪もないユストリスの民が人間たちに脅かされたことは許しがたく、中にはフロメシアを属国にすべきとの声もあった。

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