カタブツ竜王の過保護な求婚
「殿下、いつまでもそのように情けないお顔をさらすのはやめてください」
フィルがいつもの口調に戻り、冷めた視線を向けながら言う。が、カインをよく知らない者からすれば、人ひとり殺してしまいそうなほどに不機嫌な顔にしか見えない。
そして、そんな苦情は右から左で、今度はカインが頭を抱えた。
「私たちは誰よりも番に対する執着心が強い」
「それで今まで離れていらっしゃったのだとしても、レイナ様はもう殿下の妃となられたのです」
「確かにこのまま私が求めれば、彼女は私を受け入れてくれるだろう。だがそれは王女として嫁いできた義務でしかない。それなのに番となったのなら、私はもう彼女の心も体も全てを――時間も何もかもを手に入れたくなってしまう。彼女を縛りつけてしまうんだ」
「ですが、どの獣人より自制心も強くていらっしゃいますよね? レイナ様から離れることに注力されるよりも、義務ではなくお心を手に入れられるために努力なさってはどうですか?」
「心を……?」
「要するに、うじうじしていないで求愛行動をなさってください」
「き、求愛行動⁉」
「はいはい。照れていらっしゃらないで、さっさとこれらにご署名をお願いいたします。せっかくこの後のご公務でご一緒なさるのですから、まずは不仲説を払拭してきてください」
動揺するカインにもかまわず、フィルは書類を突きつけた。
そもそも今は恋愛相談の時間ではなく執務中なのだ。
「……」
カインはもう何も言わず黙って書類を受け取ると、すばやく目を通し、次々と署名をしていった。