カタブツ竜王の過保護な求婚


「レイナ様、少しはじっとしていてください。紅がはみ出してしまいます」


 アンヌが持っていた紅筆をぴたりと止め、呆れ顔でたしなめた。レイナの形良い唇に、仕上げの紅を差すところだ。
 応えて、レイナの顔が嬉しそうにほころぶ。


「だって、カイン様と初めてのデートなのよ! もう、夢じゃないかと思うくらい!」

「デートではなく、ご公務です。ああ、頬をつねるのはやめてください。せっかくのお化粧が崩れてしまいます」


 二人のやり取りに、スカートの裾を整えていたメイドの一人がくすくすと笑いをもらす。
 昨日、街への視察に王太子妃として同行してはどうかと、カインの使いの者が伝えてきたのだ。

 急な誘いではあったが、レイナはすぐさま承知した。
 街へ出かけられることも、カインに声をかけられたことも嬉しくて、昨夜はあまり眠れなかったほどだ。

 三日前の見習い騎士たちに混じって鍛練をしていたことは、何も言われなかったことから、さすがにレイナだとは気付かれなかったのだろうと安堵している。
 レイナは茶色の瞳を喜びに輝かせ、期待に胸を躍らせていた。


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