カタブツ竜王の過保護な求婚

 頭に載せた象牙色の小さな帽子は、低い位置で結われた栗色の艶やかな髪をよく引き立てている。
 あとは帽子とお揃いのケープを羽織れば、清楚な妃殿下の完成だ。
 そんなレイナの鏡に映る姿を、アンヌは考え込むような眼差しでじっと見つめた。


「なに? アンヌ、どうかした?」

「……いいえ、何でもございません」


 レイナと鏡の中で目が合うと、アンヌの顔にいつもの物わかりの良いお姉さん風の笑顔が浮かんだ。
 アンヌがレイナ専属の侍女となって、もう十年になる。まるで本当の姉のように慕ってくれるレイナが、アンヌには可愛くて仕方なかった。

 普段はその親しさから、元気が過ぎると小言ばかり口にしているのだが。
 今回の輿入れの際も、王太子の噂――親しい女性がいるとの噂は聞いていたが、きっとご結婚されたら関係なくなるだろう思ってレイナの耳に入れることはしなかった。
 そんなアンヌにとって、この状況は納得できるものではない。

 婚礼の翌日からずっと、レイナは平気なふりをしているが、それが見せかけでしかないことはわかっていた。
 どうやら乳母であるノーラも同様に感じているらしい。

 しかし、皆に心配をかけないようにとレイナが無理をしているのがわかっていたので、二人とも口にはしなかった。
 そして、レイナが何も言わないのなら気付かないふりをしようと、新婚の二人には時間が必要だからと、アンヌとノーラは変わらぬ態度で接している。
 にもかかわらず、レイナに噂の女性を近づけたばかりか、王太子は未だに会っているらしい。
 本当は姫様のどこが気に入らないのか、と王太子に詰め寄り、詰りたい。
 その女性とさっさと縁を切ってくださいと訴えたい。
 だが侍女という立場以上に、レイナが望まないだろうと、アンヌは必死に我慢していた。


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