カタブツ竜王の過保護な求婚
「そこまでバカではないだろう? 今後の国交にも影響する」
「――かしこまりました」
先代国王のことを考えれば安心はできなかったが、二人ともあえて口にはしなかった。
カインが開けた窓から春のあたたかな風と芳しい花の香りが部屋へと流れ込む。
「おや……まあ、今日は気持ちの良いお天気ですからね」
窓の外に広がる庭を見下ろすカインの背後で、フィルが呟いた。
その視線の先――かなり遠くではあるが、そこには散歩中のレイナがいたのだ。
花の香りを直接楽しんでいるのか、レイナは花壇へ顔を寄せるように屈んでいた。
しばらくして体を起こしたレイナの両手はふわりと重ねられている。と、執務室の窓辺に立つカインに気付いたらしい。
レイナは嬉しそうな笑みを向けて、ぱっと両手を開いた。
ひらひらと黄色い蝶が手のひらから舞い上がる。
「……可愛らしいお方ですよね。いつまでもぐずぐずしている殿下がまぬけに思えるほどに」
平坦な声である種の苦言を呈したフィルは、必要な書類を抱えて出て行った。
一人になったカインは窓の外をしばらく見ていたが、はっとして急ぎ執務室を後にした。