カタブツ竜王の過保護な求婚
弾んだ声でアンヌたちに向かって手を振るレイナに、その場に漂っていたわずかな緊張もゆるむ。
「行ってらっしゃいませ」
アンヌが応えて、皆が頭を下げる。レイナはわくわくしながらカインに導かれ、扉を抜けた。
正面に立ちはだかる大きな常緑樹。長い年月を感じさせる大木は幾本もが土壁を超える高さで、空へと太い枝を伸ばしている。
「この木は……」
「そう、婚姻の贈り物にした葉冠の木だ」
細長く光沢のある濃緑色の葉は、あの日の喜びを瑞々しく思い出させる。
「婚礼の日の前日、私が程良い枝を選んで切った時には、まだ花は咲いていなかったが……」
カインの視線の先には、黄色みがかった白い花々が咲きほころんでいる。
だが、その可愛らしさよりも、レイナはカインの言葉に気を取られた。
「あの葉冠はカイン様が作ってくださったのですか?」
「ああ、あれは私からの贈り物だから。だが、何度か失敗して、無駄に枝を消費してしまった」
カインは言い難そうに続ける。
「それに紅玉は私が掘り出したわけでも、細工したわけでもない。曾祖母が大切にしていたものだ。彼女が婚姻の時に、夫となる曾祖父から贈られたものらしい」
「そんな大切なものを⁉」
うなずいたカインは、太い幹と幹の間をぬって、さらに先へと進んだ。