シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎


毎朝のこの時間が、菜摘は好きだ。
この後菜摘もシャワーを浴びて、昨夜の弥勒を洗い流してしまうのがちょっと寂しいけど。夜までの我慢。弥勒はほとんど毎日、家で晩ごはんを食べるから、それまで一子と犬と過ごす。

弥勒は家で犬を飼うのが昔からの憧れだったらしくて、「まだ一子も小さいけど」と言いにくそうに、「いつか飼おう」と言うから「私も犬好きですよ、いつでもいいですよ」って言ったら、すごく喜んだ。

そんな彼の顔が見れるなら、なんでも頑張ろうと菜摘は思ってる。

でも、いつ菜摘に赤ちゃんができるかもわからないから、盲導犬として育てられたのに、残念ながら盲導犬のテストに落ちてしまった成犬を引き取ることにした。

犬の名前は、パル。
引き取った日からすごく賢くて、リビングの端に居場所を作ってやって、夜や誰もいない時は閉じ込められるようにした。

毎朝、一子が起きる時間と同じ7時に朝ご飯をやる。
今朝みたいに弥勒とベットにいると、ワンワン(ごはん! )柵をがしゃがしゃ(開けて下さい! )と、目覚まし時計のようになるけれど、それ以外では声を聞いたことがないぐらいに大人しい。子供の一子とも、すぐ仲良くなってくれた。

家族が増えて、笑顔も増えて、よかったね、って。

朝日が窓から入ってきて、新しい今日がはじまる。静謐な明方と世の中がはじまる気配が混じる、そんな朝を毎日、弥勒と家族と迎えられるのは⋯⋯


「何考えてるの? 」


と弥勒が菜摘の手の上に、自分の大きな手を重ねて、少し思わせぶりに指の上側じゃなくて、横側や間を擦り、下から見上げるように菜摘の目をのぞいた。

夜を思わせる弥勒の目つきに、とたんに菜摘は真っ赤になった。

だめだめ、

こんな爽やかな朝の団欒に!

と菜摘が焦れば焦るほど、弥勒はちょっと調子に乗って、菜摘の手を唇に当てた。
人差し指の折れ曲がった関節を柔らかい唇で包み、軽く歯を当てて、それから吸い付いた。弥勒の舌の動きが、クルリと舐め上げ、調子に乗ってくる⋯⋯ 。


「もう、もう、弥勒さん! 」

「みろくはなつみがすきー」


と一子が落ち着いて言ったので、さらに菜摘は赤くなった。

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