シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



結局。

いつもの2人のベットに横になる。
昨日と何一つ変わらない夜。
何一つ変わらない弥勒。
だのに、菜摘には見えない物が見えてしまって、それだけで変わらないはずの世界を一変させた。


「どうせ。さっきの美人さんやら。お嬢様やら。どうせどうせ! 」


いちいち、ギュッ、ギュッ、と体が痛む。

弥勒を知って強くなったのに、弥勒を知って弱くなった。
弥勒のために強くなれるのに、弥勒の事で弱くなる。

どうしようもないことを、しつこく言ったらダメだって、どこかで自分に言い聞かせる気持ちもある。
今現在のわたしと出会って変わった弥勒なんだってわかってる自分もいる。

でも。

ぎゅーっと心が締め付けられる。


「知らない」


と菜摘が顔を伏せたら優しく頭を撫でてくれて、いつもならそれだけで幸せなのに、誰かにもしたこの行為や、弥勒の手が自分だけの手じゃないと知ってしまって、でも、彼の手を払ったら、しつこすぎて過剰に過敏すぎて、嫌がられると思ったら、気にする自分がまた嫌いになった。


「うーん」


と弥勒が困って漏らしたため息も、ドクン、と心がして、嫌がられたかも、呆れたかも、と思ってしまう。

嫌われる。

幸せだったのに、こんなにも簡単に急に、しかも何にも起こってもいないのに、狭い狭い自分の心の中だけにとらわれることがあるんだ、抜け出せなくなるんだ、

いとも簡単に。

ぎゅーってまるくなって、痛みをさらに固めて抱き抱えるみたいに、


「どうしたらいい? 」


どうにもできない、自分にも。
弥勒の過去にも。
どうしようもない。

ぜーんぶを通り過ぎても、私だったって事なんだから⋯⋯ 、
と自分に言い聞かせていたら、


「菜摘に会って、菜摘だけにオレは塗り替えられたんだよ」


って弥勒が言った。


「誰とも上手くいかなかったし、誰のものにもならなかった」

「⋯⋯ 」

「オレは誰にも丸ごとで受け入れられなかったし、誰も好きじゃなかった」

「⋯⋯ 」

「菜摘だけだ。
オレの全てを受け入れて、オレも菜摘の全てを愛してる。
オレは菜摘のもんだよ。
全部、過去も未来も、オレ自身全部、菜摘のものだ」


と言ってから、何かの思考が彼の頭の中をよぎったのだろう、


「菜摘も、君の心も体も、爪の先までオレのもんだから」


と急に強い口調で言った。


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