シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



11歳の時、菜摘さんに女の子が産まれた。

それまでにも菜摘さんはしょっちゅう亜紀を家に呼んでくれていた。
その日も家にいたので、そのまま一緒に産院に行って、赤ちゃんが産まれた時は一子(いちこ)と部屋のすぐ外にいた。

『ほら、妹さんですよー』

と看護婦さんが見せてくれる。
4歳の一子も、じーっと赤ちゃんを覗き込んでいた。
一子は無口な子なので2人で黙って赤ちゃんを見る。

不思議。

濡れてるみたいで、クシャってしてて、赤くて、小さくて。
足は曲げてて、手もきゅーって。
さっきまで菜摘さんのお腹の中にいた事が分かるようなまぁるい形。
目はまだ閉じている。
か弱いのにエネルギーがすごい。
見ても見ても飽きない。
いつまででも、見てしまう。

菜摘さんは急に産気づいてすぐ生まれたので、弥勒さんが会社から急いで来た時は、もう赤ちゃんと部屋にいた。

トン、

とドアが開いた。

菜摘さんはベットで横になっていて、一子と亜紀は赤ちゃんのベットをのぞいていた。

背の高い弥勒さんが戸口に立っていた。
入ってきて、赤ちゃんと一子のそばにきて、一子を抱き上げたら、亜紀は見上げるぐらいの高さだった。

『妹だ』

と言って一子の頭を大きな手で優しく撫で、赤ちゃんにもそっと触れた。

『なつかしいな、一子を思い出す』

と優しい声で話して、また一子を元の場所に下ろした。

それから菜摘さんの寝ているベットの横に行って身をかがめた。
菜摘さんに唇を寄せて、上から包むみたいに両腕で優しくいたわって⋯⋯ 。

菜摘さんと一言、二言かわしながら、弥勒さんが泣いた。

男の人が泣いてる⋯⋯ 。
見ていて亜紀まで泣きそうになった。
赤ちゃんが生まれるって、すごく大変な事なんだな、って思った。

そのあとも弥勒さんは、菜摘さんの手を握って、2人で笑い合いながら、弥勒さんはその手に顔をつけて泣いていた。


赤ちゃんの名前は二子(にこ)ちゃん。

最初、正直、
『えっ? 』
って思ったけど、しばらくしたら可愛くて良い名前かもと思った。

その頃の櫂くんは、まだ子供だった。
興奮して変なことばかりするから、しばらく立ち入り禁止になって、そのうち少し落ち着いたので来るのを許されたけど、なんか危なっかしくて、4歳の一子に、

『かい、ダメです! 』

と怒られた。

翌年、櫂くんの方にも妹の愛莉(あいり)ちゃんが産まれて、

『赤ちゃんだらけだね』

ってみんなで言っていたら、また2年後には菜摘さんに三子(さんこ)ちゃんが生まれた。

もうみんな名前の予測はついて、

『だよね〜』

って。

櫂くんはその時もまだ興奮して、ワーワー騒いでいたし6歳の一子にもやはり怒られていた。

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