シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎



 櫂くん、今、どんな事考えてる?
 私は話したいのに、どうしていいのか分からないんだ。

 学校ではどんなかんじなの?
 家みたいに無口なかんじ?

 もし、彼が小学校の時のままだったら、どうしよう⋯⋯ 。
 明るくて、自信に溢れてて、優しくて、かっこよかったら⋯⋯ 。

 他の女の子も、みんなが櫂くんを好きになっちゃう。
 そんな櫂くんを私は知らないままでいたら、どうしよう。


4年ぶり。
亜紀は櫂を外で見た。

同じ大学付属の亜紀は女子校、櫂は共学。
高校1年だけの行事で合同で留学生との交流会があった。
(櫂くんがいるはず⋯⋯ )
亜紀は共学の生徒達の中、彼を探していた。
(あっ、櫂くん⋯⋯ )
遠くに彼がいる。
大勢の生徒達の中⋯⋯ 。

櫂は他の子より背が高くて、長めの黒髪にすごく整った顔で余裕な態度だった。
綺麗に着ている制服のポケットに手を入れて、勉強はできるのに、軽そうな制カバンを肩にかけて、少し足を崩して立つ。
育ちの良さがオーラみたいに全身を包んでいた。
すごく目立つ男の子になっていた。

女子に話しかけられても全然普通に応対
している。女子に向けられたにこやかな笑顔に、胸がキュとした。

(なんだ⋯⋯ 櫂くんてば、あんな感じなんだ。)

心配が的中。

(もう何年も笑顔を見てなかったのにな。
ムスッとしていて話もしないじゃない)

亜紀には笑いかけてくれないのに。

一瞬、人垣のなか、彼と目が合ったような気がした⋯⋯ 。
でも他の生徒が動いて彼は見えなくなった。

(遠い)

離れた知らない場所で、亜紀のいない世界で、櫂は亜紀の知らない彼を積み上げている。

 櫂くんはもう、私に興味なんて無くなっちゃったのかもしれない⋯⋯ 。


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