シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎
ある日。
櫂が女の子を家に連れてきた。
見た目は知的で美人でお嬢様なかんじの子だった。
『クラスメイト。
家が学校経営をしていて、自分も幼稚園をつぐかもしれないから、勉強したいんだって』
絶対違う、と瞬間思った。
一子も思った。息を吸い込んで、怒りをおさえた。
亜紀はツキッと刺されたみたいに胸が痛くなって、ギュッて体中がかたくなったみたいだった、
愛莉ちゃん、二子ちゃん、三子ちゃん、四狼くん、犬、みんな新しい人の登場を興味を持って見ているのに、女の子は見ようともしない。
この人違う⋯⋯ 櫂くん目当てだ。
お金持ちの櫂くんをが好きというタイプだ。しかも櫂くんにやたらと近づいて、すぐさわる。
だいたい幼稚園を知りたくて来る人は、こんな格好してない。
それに、全然子供に興味なんてなくて、ずっと家やら家具やらをジロジロ見ながら、綺麗に巻いた髪の毛と、高価なお洒落着を触っている。
一子が横で、
『かいはばか』
と呟いた。
『すっっっごいお家ね、櫂くん!
ねぇ、櫂くん』
私は全然誘ってくれないのに、
私とは話さないのに、
何でこんなあからさまな子、、、
やだ、、、もしかして、櫂くん好きになっちゃったのかな。
忘れちゃったのかな。
《ここが、ぐわ〜ってなる》って胸を押さえてた。可愛いって言ってくれた。
でも、今はこの子に《ぐわ〜っ》てなってるの?
ちゃんと少しかがんで、あの子の顔を見て話を聞いてる⋯⋯ 。
胸が痛い。
ポロッ、
涙が落ちた。
ポロッ、ポロッ、
一子は亜紀をちらっとみた。
それからまっすぐ前を向いて、女の子ににっこり笑って、いきなり『じゃ、こちらに』と言って、彼女の手を引いた。
『やだ、櫂くん! 』
とその子はいいながら、一子に丸く低くなっているキッチンの、ベンチソファーに座らされた。
櫂は亜紀の涙を見て、一子の強引さを見て、彼女の態度を見て、たぶん、どうしていいか分からなかった、瞬間、失敗したと、何やら失敗した⋯⋯ 数年前、子供の頃、弥勒に言われてたのに⋯⋯ 気をつけろと、こういう事なのに、ちょっとした、何でもない馬鹿みたいな考えてない行為が、思ってもみない感情を引き起こして、大事な何かに影を落とす⋯⋯ 。
『やめろよ』
と櫂は言うしかなかった。
そうしか分からなかった。
でも菜摘さんがなんと櫂を止めた。
『じゃあ、いったい何しに来たの?
ちゃんと見て、櫂くん』
と低く怒った声で言った。
一子が、
『幼稚園て、こんなかんじです』
と言う。
愛莉ちゃんが隣に座り『あのね』と話しかけたが見もしない
二子ちゃん、三子ちゃんが、どうぞ、どうぞ、と言いながら、作りかけていた小麦粉粘土作の、丸っこいものや、細長いもの、四角いものを彼女の膝の上に乗せた。
『あっ、やだ! 汚れちゃう! 』
と彼女が振り払う、せっかく作った粘土は全部、グシャグシャ、もろもろにになって床に飛び散った。
2歳の四狼くんが、トコトコ歩いて、ベロベロしている手で、ベチャ〜〜〜とさわり、涎を服にたらした。わざとではない。
『やめて!きたないっ! 』
彼女が叫んで、四狼くんをつきとばし⋯⋯ もちろん一子が抱き止め、
『こどもをつきとばした』
と低い声で言った。
『櫂くん〜〜〜何、この子たち〜』
と彼女が被害者みたいに言ったら、菜摘さんが、
『まず、そのアクセサリーはずしてくれる?
子供が怪我しますから。
髪はくくってください。
目に入りますから。
汚れて困る服はやめた方がいいですし、ちゃんと、子供の方に向いて、見てくれる? 』
と優しくにっこり笑った。
『えっ? 』
と彼女が言った。菜摘さんは、
『だって、幼稚園の経営をしたいから、お勉強にこられたんでしょう?
子供に怪我させてしまいますから、きちんと気をつけて下さい』
と優しい口調だけど、すごく厳しく言った。けっこう迫力があった。先生みたいだ。
『櫂くん、もう、ヤダ、
みんなひどい』
とその子が言ったら、櫂くんは『送ってく』と言って、その子と家から出て行った。
『ばからしー』
と一子ちゃんがいいながら、小麦粉粘土を拾っていた。
ショックだった。
櫂があんな子を連れてきたことも。
送って行ったことも。
あの子が好きなのかな。
何年も、あの時の事を忘れずに信じてたけど、本当に櫂くんは変わってしまったのかも。
もうみえないよ。櫂くんが。
亜紀が泣いてしまって、一子はものすごく怒っていて。
子供たちもみんな不機嫌で。
菜摘さんは、外を見て何かを待っている⋯⋯ 。
ある日。
櫂が女の子を家に連れてきた。
見た目は知的で美人でお嬢様なかんじの子だった。
『クラスメイト。
家が学校経営をしていて、自分も幼稚園をつぐかもしれないから、勉強したいんだって』
絶対違う、と瞬間思った。
一子も思った。息を吸い込んで、怒りをおさえた。
亜紀はツキッと刺されたみたいに胸が痛くなって、ギュッて体中がかたくなったみたいだった、
愛莉ちゃん、二子ちゃん、三子ちゃん、四狼くん、犬、みんな新しい人の登場を興味を持って見ているのに、女の子は見ようともしない。
この人違う⋯⋯ 櫂くん目当てだ。
お金持ちの櫂くんをが好きというタイプだ。しかも櫂くんにやたらと近づいて、すぐさわる。
だいたい幼稚園を知りたくて来る人は、こんな格好してない。
それに、全然子供に興味なんてなくて、ずっと家やら家具やらをジロジロ見ながら、綺麗に巻いた髪の毛と、高価なお洒落着を触っている。
一子が横で、
『かいはばか』
と呟いた。
『すっっっごいお家ね、櫂くん!
ねぇ、櫂くん』
私は全然誘ってくれないのに、
私とは話さないのに、
何でこんなあからさまな子、、、
やだ、、、もしかして、櫂くん好きになっちゃったのかな。
忘れちゃったのかな。
《ここが、ぐわ〜ってなる》って胸を押さえてた。可愛いって言ってくれた。
でも、今はこの子に《ぐわ〜っ》てなってるの?
ちゃんと少しかがんで、あの子の顔を見て話を聞いてる⋯⋯ 。
胸が痛い。
ポロッ、
涙が落ちた。
ポロッ、ポロッ、
一子は亜紀をちらっとみた。
それからまっすぐ前を向いて、女の子ににっこり笑って、いきなり『じゃ、こちらに』と言って、彼女の手を引いた。
『やだ、櫂くん! 』
とその子はいいながら、一子に丸く低くなっているキッチンの、ベンチソファーに座らされた。
櫂は亜紀の涙を見て、一子の強引さを見て、彼女の態度を見て、たぶん、どうしていいか分からなかった、瞬間、失敗したと、何やら失敗した⋯⋯ 数年前、子供の頃、弥勒に言われてたのに⋯⋯ 気をつけろと、こういう事なのに、ちょっとした、何でもない馬鹿みたいな考えてない行為が、思ってもみない感情を引き起こして、大事な何かに影を落とす⋯⋯ 。
『やめろよ』
と櫂は言うしかなかった。
そうしか分からなかった。
でも菜摘さんがなんと櫂を止めた。
『じゃあ、いったい何しに来たの?
ちゃんと見て、櫂くん』
と低く怒った声で言った。
一子が、
『幼稚園て、こんなかんじです』
と言う。
愛莉ちゃんが隣に座り『あのね』と話しかけたが見もしない
二子ちゃん、三子ちゃんが、どうぞ、どうぞ、と言いながら、作りかけていた小麦粉粘土作の、丸っこいものや、細長いもの、四角いものを彼女の膝の上に乗せた。
『あっ、やだ! 汚れちゃう! 』
と彼女が振り払う、せっかく作った粘土は全部、グシャグシャ、もろもろにになって床に飛び散った。
2歳の四狼くんが、トコトコ歩いて、ベロベロしている手で、ベチャ〜〜〜とさわり、涎を服にたらした。わざとではない。
『やめて!きたないっ! 』
彼女が叫んで、四狼くんをつきとばし⋯⋯ もちろん一子が抱き止め、
『こどもをつきとばした』
と低い声で言った。
『櫂くん〜〜〜何、この子たち〜』
と彼女が被害者みたいに言ったら、菜摘さんが、
『まず、そのアクセサリーはずしてくれる?
子供が怪我しますから。
髪はくくってください。
目に入りますから。
汚れて困る服はやめた方がいいですし、ちゃんと、子供の方に向いて、見てくれる? 』
と優しくにっこり笑った。
『えっ? 』
と彼女が言った。菜摘さんは、
『だって、幼稚園の経営をしたいから、お勉強にこられたんでしょう?
子供に怪我させてしまいますから、きちんと気をつけて下さい』
と優しい口調だけど、すごく厳しく言った。けっこう迫力があった。先生みたいだ。
『櫂くん、もう、ヤダ、
みんなひどい』
とその子が言ったら、櫂くんは『送ってく』と言って、その子と家から出て行った。
『ばからしー』
と一子ちゃんがいいながら、小麦粉粘土を拾っていた。
ショックだった。
櫂があんな子を連れてきたことも。
送って行ったことも。
あの子が好きなのかな。
何年も、あの時の事を忘れずに信じてたけど、本当に櫂くんは変わってしまったのかも。
もうみえないよ。櫂くんが。
亜紀が泣いてしまって、一子はものすごく怒っていて。
子供たちもみんな不機嫌で。
菜摘さんは、外を見て何かを待っている⋯⋯ 。