シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎
しばらくして、櫂は帰ってきた。
菜摘さんがホッとして黙って窓を開けた。
入り口で、亜紀が泣いているのを見て、櫂は痛そうな顔をした。黙って突っ立ってる。
『別に、ほんとにただのクラスメイトだ』
とボソッと言った。一子が、
『でもお金目当てだった』
と言った。櫂は気まずそうだった。
彼女は学校ではわりと知的で、親の職業を真面目に継ぎたいと言うから、自分と重ね合わせて、そんな気持ちで取り組めるのはいい事だな、と思ったのだ。
でもそれは彼女の外面だった。櫂が家と全く違う外面でいるように。
そして、彼女の本当はあんなんだった。
櫂の家に、櫂のお金に興味がある⋯⋯ 。
櫂は連れてくるまで自分の家がすごいとか、全く忘れていた。
しかも、今日も亜紀は来てるのだろうか、などと思っていたのだ。
すぐ彼女の本当が見えて、気がついた。
そんなのを連れてきてしまって、中途半端な善意とか、浅はかさがバレたみたいなかんじもする。
なのに、しっかり亜紀を傷つけてしまった。
弥勒に言われてた、やくのは可愛いいけど、自分が傷つけちゃダメだ。
オレ、ダメだ、と思った。
ひっこみがつかないような恥ずかしさと痛さ。
なんか気持ちが抑えられない
『櫂くん』
菜摘さんが呼びかけたが、櫂は目を合わさず顔を上げたまま横を向いた。
『櫂くん、お金目当ての子は相手しちゃ⋯⋯ 』
と諭すように菜摘さんが言うのを櫂は遮って
『じゃ。金がなけりゃいいんじゃないの』
と投げやりにいった。
『いっそオレは金がない方が価値が上がるんじゃないの? 』
『櫂くん⋯⋯ 』
『金持ちじゃなかったら? オレの金じゃない。オレのもんじゃない』
『だから櫂くん自身が⋯⋯ 』
と菜摘さんが言いかけたら、
『オレ自身に価値があるなら、金なんてない方がいいんじゃないの』
ややこしいことを、どうしてそうなる⋯⋯ と菜摘さんと一子の顔が言ってる。
『オレは高校に行かない』
はい? 何でそこに?
と一子がため息をついた。
櫂自身も、もうメチャクチャだと思った。
でも渦巻くような気持ちが嵐みたいで、抑えが効かない、何か、壊してしまいそうなぐらいだ。
『金がなくてどれだけ価値があるのか確かめる』
『じゃ。どうするの? 出て行く? 』
と菜摘さんが言った。
『それが櫂くんの思う価値?
お金があったら櫂くんの価値が下がる?
それはそれだけの人だって事じゃない。
そんな人がお金を持ったって、どうせ、全部無くしてしまう』
『⋯⋯ 』
『お金があったって、ちゃんとした人にはなれるし、価値は磨けると思うけど』
櫂は菜摘さんを睨んでいた。苦しそうに。
多分、理解してる。
そうだと思う、だけど、マグマにのまれる、
『櫂くんを大事に思う家族がいて、会社にはたくさんの人が働いてる。
誰かが責任を負う、櫂くんがいなければ、誰かが、そうなる。
その人がちゃんとしてなかったら、全部を失う。
それだけのこと。
この愛情と責任をにげる? 』
『逃げないし』
と櫂くんが低く絞るように言った。
『わたしも同じ。
逃げる人もいるかもしれないけど、わたしは逃げない。
絶対、手放さない』
しばらくして、櫂は帰ってきた。
菜摘さんがホッとして黙って窓を開けた。
入り口で、亜紀が泣いているのを見て、櫂は痛そうな顔をした。黙って突っ立ってる。
『別に、ほんとにただのクラスメイトだ』
とボソッと言った。一子が、
『でもお金目当てだった』
と言った。櫂は気まずそうだった。
彼女は学校ではわりと知的で、親の職業を真面目に継ぎたいと言うから、自分と重ね合わせて、そんな気持ちで取り組めるのはいい事だな、と思ったのだ。
でもそれは彼女の外面だった。櫂が家と全く違う外面でいるように。
そして、彼女の本当はあんなんだった。
櫂の家に、櫂のお金に興味がある⋯⋯ 。
櫂は連れてくるまで自分の家がすごいとか、全く忘れていた。
しかも、今日も亜紀は来てるのだろうか、などと思っていたのだ。
すぐ彼女の本当が見えて、気がついた。
そんなのを連れてきてしまって、中途半端な善意とか、浅はかさがバレたみたいなかんじもする。
なのに、しっかり亜紀を傷つけてしまった。
弥勒に言われてた、やくのは可愛いいけど、自分が傷つけちゃダメだ。
オレ、ダメだ、と思った。
ひっこみがつかないような恥ずかしさと痛さ。
なんか気持ちが抑えられない
『櫂くん』
菜摘さんが呼びかけたが、櫂は目を合わさず顔を上げたまま横を向いた。
『櫂くん、お金目当ての子は相手しちゃ⋯⋯ 』
と諭すように菜摘さんが言うのを櫂は遮って
『じゃ。金がなけりゃいいんじゃないの』
と投げやりにいった。
『いっそオレは金がない方が価値が上がるんじゃないの? 』
『櫂くん⋯⋯ 』
『金持ちじゃなかったら? オレの金じゃない。オレのもんじゃない』
『だから櫂くん自身が⋯⋯ 』
と菜摘さんが言いかけたら、
『オレ自身に価値があるなら、金なんてない方がいいんじゃないの』
ややこしいことを、どうしてそうなる⋯⋯ と菜摘さんと一子の顔が言ってる。
『オレは高校に行かない』
はい? 何でそこに?
と一子がため息をついた。
櫂自身も、もうメチャクチャだと思った。
でも渦巻くような気持ちが嵐みたいで、抑えが効かない、何か、壊してしまいそうなぐらいだ。
『金がなくてどれだけ価値があるのか確かめる』
『じゃ。どうするの? 出て行く? 』
と菜摘さんが言った。
『それが櫂くんの思う価値?
お金があったら櫂くんの価値が下がる?
それはそれだけの人だって事じゃない。
そんな人がお金を持ったって、どうせ、全部無くしてしまう』
『⋯⋯ 』
『お金があったって、ちゃんとした人にはなれるし、価値は磨けると思うけど』
櫂は菜摘さんを睨んでいた。苦しそうに。
多分、理解してる。
そうだと思う、だけど、マグマにのまれる、
『櫂くんを大事に思う家族がいて、会社にはたくさんの人が働いてる。
誰かが責任を負う、櫂くんがいなければ、誰かが、そうなる。
その人がちゃんとしてなかったら、全部を失う。
それだけのこと。
この愛情と責任をにげる? 』
『逃げないし』
と櫂くんが低く絞るように言った。
『わたしも同じ。
逃げる人もいるかもしれないけど、わたしは逃げない。
絶対、手放さない』