シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
✴︎
外の世界の櫂。
学祭で、大勢の友達に囲まれて、櫂は中心にいた。
明るく活発で自信に溢れ、10歳の櫂がそのまま、素敵な高校男子に成長したら、こんなかんじだ。
誰よりもかっこよくて、誰よりも目立っていて、堂々と中心で話す。
イケメンな男の子達と楽しそうに笑い、その周りには綺麗な女の子が囲み、それを悠々とれあしらう。
櫂ってこんな子だった。昔から。
外の櫂くん。
亜紀はとてもじゃないけど声をかける勇気もなくて、出来れば隠れてしまいたかった。実際、足が反対方向に向く。
が、隣にいた一子が、
「家がほんとのすがた。これは外ヅラ」
とボソッと亜紀に言ってから、まっすぐ、櫂のいるど真ん中に平気で割り込んでいった。
人の囲いが、一子にむけて、さーっと割れた。
「櫂、ばかみたいに楽しそうね」
「一子か。ここ高校だよ?
コドモには早いんじゃない? 」
普段、ほとんど言葉数の少ない2人が、流暢に話をしている⋯⋯ これが外面⋯⋯ ?
亜紀には外面はやっぱり全然なかった。だから、
「あれ? あきちゃん」
とその場にいる1人に声をかけられた時、返事もできなかった。
「あ、ほんとだ! 」
よく見たら、小学校のクラスメイトが何人もいる。付属で小学校からの持ち上がりだから当たり前なのに亜紀はそこまで頭が回ってなかった。
「ほんとだ、わー、まだ櫂とつながってたんだー」
「あの頃、亜紀はオレのだ、とか、ずっと言ってたよねー」
「付き合ってるの? 」
と男の子に顔を寄せて聞かれた。
うわわ、どうしよう、
首を振った。
「えっ、あきちゃん可愛くなったね
櫂のじゃないなら、付き合お? 」
「女子校だろ」
「合コンしたいんだけど」
と男子が言い出した。
「櫂、紹介しろよ」
と知らない男子にも言われる。
一方、女子達が、
「亜紀ちゃん久しぶり〜」
「えっ、この人だれ? 」
「櫂くんのなにもの⁈ 」
「えっカノジョとかじゃないよね! 」
すっかり、取り囲まれてしまった。
じろじろ、動物園みたい。
「この子もお金持ちなの? 」
と1人が聞いた。
「ふつう」
と元同級生が答える。
「じゃ、ダメじゃんね?
認められないよね」
「櫂は超金持ちだからな」
「そうだよ、超金持ちなんだから」
こんな金持ちいないんだから。
そうそう
超すごい金持ちだから
そうだよ金持ちなんだよ
超金持ち
だからいいよね
お金持ちで治らないぐらい金持ちなんだよ
それが魅力よね
お金持ちなのがいいよね
イケメンでごめん、てちゃんと本人だって言ってるし⋯⋯
お金持ちだから
「ねー、あなたもそれで一緒にいるんでしょ? 」
と、一人の子が亜紀を覗き込んで言った。
櫂は顔だけは張り付けたような笑顔、でも傷ついてる、櫂くんの価値はそんなんじゃない、私は知ってる、櫂くんの本当のよさ、お金持ちだからじゃないっ!
「やめて! 」
と亜紀が櫂の前に立ち塞がった。
両手を広げて、櫂の気持ちを守りたい。
「ちがう!
そんなの関係ない!
お金持ちとか!
櫂くんは櫂くんだからっ! 」
その直後、亜紀の広げた腕を、外側からそっと大きな手が包んで腕を下ろしてくれた。櫂はいつの間にかこんなに背が高くなってたんだ。
真後ろ。
櫂はふれるかふれないか、ギリギリの近さに立っている。
彼の体温がじわっと感じられてしまう距離。
それから、彼が頭を下げてきて、彼の髪が耳に触れた、耳の横に彼の唇がある。
「櫂くん⋯⋯ 」
亜紀の声は震えた。
「ありがとう亜紀」
と耳のすぐそばで声。
櫂くんの声。
「⋯⋯ 」
「ずっと、ありがとう」
それから、櫂くんは周りのみんなに、そのままの体勢で、上目遣いに、
「ほんと、金持ちでごめんね〜」
と余裕でにやりとした。
みんながごくっと息を呑む。
「亜紀はオレのだから」
5年ぶりの櫂のことば。
「紹介も合コンもダメだから」
亜紀は櫂の言葉しか聞こえなくなって、どこにいるか。まわりなんて見えなくなった
「ずっと話したかったんだ、本当は」
「櫂くん」
「金持ちだけど、オレといてくれる?
オレは亜紀が亜紀だから、好きだ」
と言った。
「私も、
私も櫂くんが櫂くんだから好き」
「ありがとう、オレを見ててくれて」
櫂くんは背が高くなってた。
声が低くなってた。
腕も胸も、体がゴツゴツしてかたくて、広くて、男の人になってた。
亜紀は肩越しにふりむいて、櫂を見上げた。
櫂くんが嬉しそうに亜紀をみていた。
あっ彼の目。
昔のままの櫂くんがいる。
優しく、頼りになって、自信があって。
だけど、やはり悩んでいる分、同じ明るい笑顔にも、どこか深みやあつみをかんじさせて、配慮まで匂わせて、ちょっと、複雑でややこしくなってて、それに大人の包容力を感じる。ほんとの優しさ、ちょっとした余裕や甘さまでも。
彼はもっともっと素敵な人になっていた。
家も外も同じ櫂になっていく。
小さい頃から成長した大人の櫂がいた。
外の世界の櫂。
学祭で、大勢の友達に囲まれて、櫂は中心にいた。
明るく活発で自信に溢れ、10歳の櫂がそのまま、素敵な高校男子に成長したら、こんなかんじだ。
誰よりもかっこよくて、誰よりも目立っていて、堂々と中心で話す。
イケメンな男の子達と楽しそうに笑い、その周りには綺麗な女の子が囲み、それを悠々とれあしらう。
櫂ってこんな子だった。昔から。
外の櫂くん。
亜紀はとてもじゃないけど声をかける勇気もなくて、出来れば隠れてしまいたかった。実際、足が反対方向に向く。
が、隣にいた一子が、
「家がほんとのすがた。これは外ヅラ」
とボソッと亜紀に言ってから、まっすぐ、櫂のいるど真ん中に平気で割り込んでいった。
人の囲いが、一子にむけて、さーっと割れた。
「櫂、ばかみたいに楽しそうね」
「一子か。ここ高校だよ?
コドモには早いんじゃない? 」
普段、ほとんど言葉数の少ない2人が、流暢に話をしている⋯⋯ これが外面⋯⋯ ?
亜紀には外面はやっぱり全然なかった。だから、
「あれ? あきちゃん」
とその場にいる1人に声をかけられた時、返事もできなかった。
「あ、ほんとだ! 」
よく見たら、小学校のクラスメイトが何人もいる。付属で小学校からの持ち上がりだから当たり前なのに亜紀はそこまで頭が回ってなかった。
「ほんとだ、わー、まだ櫂とつながってたんだー」
「あの頃、亜紀はオレのだ、とか、ずっと言ってたよねー」
「付き合ってるの? 」
と男の子に顔を寄せて聞かれた。
うわわ、どうしよう、
首を振った。
「えっ、あきちゃん可愛くなったね
櫂のじゃないなら、付き合お? 」
「女子校だろ」
「合コンしたいんだけど」
と男子が言い出した。
「櫂、紹介しろよ」
と知らない男子にも言われる。
一方、女子達が、
「亜紀ちゃん久しぶり〜」
「えっ、この人だれ? 」
「櫂くんのなにもの⁈ 」
「えっカノジョとかじゃないよね! 」
すっかり、取り囲まれてしまった。
じろじろ、動物園みたい。
「この子もお金持ちなの? 」
と1人が聞いた。
「ふつう」
と元同級生が答える。
「じゃ、ダメじゃんね?
認められないよね」
「櫂は超金持ちだからな」
「そうだよ、超金持ちなんだから」
こんな金持ちいないんだから。
そうそう
超すごい金持ちだから
そうだよ金持ちなんだよ
超金持ち
だからいいよね
お金持ちで治らないぐらい金持ちなんだよ
それが魅力よね
お金持ちなのがいいよね
イケメンでごめん、てちゃんと本人だって言ってるし⋯⋯
お金持ちだから
「ねー、あなたもそれで一緒にいるんでしょ? 」
と、一人の子が亜紀を覗き込んで言った。
櫂は顔だけは張り付けたような笑顔、でも傷ついてる、櫂くんの価値はそんなんじゃない、私は知ってる、櫂くんの本当のよさ、お金持ちだからじゃないっ!
「やめて! 」
と亜紀が櫂の前に立ち塞がった。
両手を広げて、櫂の気持ちを守りたい。
「ちがう!
そんなの関係ない!
お金持ちとか!
櫂くんは櫂くんだからっ! 」
その直後、亜紀の広げた腕を、外側からそっと大きな手が包んで腕を下ろしてくれた。櫂はいつの間にかこんなに背が高くなってたんだ。
真後ろ。
櫂はふれるかふれないか、ギリギリの近さに立っている。
彼の体温がじわっと感じられてしまう距離。
それから、彼が頭を下げてきて、彼の髪が耳に触れた、耳の横に彼の唇がある。
「櫂くん⋯⋯ 」
亜紀の声は震えた。
「ありがとう亜紀」
と耳のすぐそばで声。
櫂くんの声。
「⋯⋯ 」
「ずっと、ありがとう」
それから、櫂くんは周りのみんなに、そのままの体勢で、上目遣いに、
「ほんと、金持ちでごめんね〜」
と余裕でにやりとした。
みんながごくっと息を呑む。
「亜紀はオレのだから」
5年ぶりの櫂のことば。
「紹介も合コンもダメだから」
亜紀は櫂の言葉しか聞こえなくなって、どこにいるか。まわりなんて見えなくなった
「ずっと話したかったんだ、本当は」
「櫂くん」
「金持ちだけど、オレといてくれる?
オレは亜紀が亜紀だから、好きだ」
と言った。
「私も、
私も櫂くんが櫂くんだから好き」
「ありがとう、オレを見ててくれて」
櫂くんは背が高くなってた。
声が低くなってた。
腕も胸も、体がゴツゴツしてかたくて、広くて、男の人になってた。
亜紀は肩越しにふりむいて、櫂を見上げた。
櫂くんが嬉しそうに亜紀をみていた。
あっ彼の目。
昔のままの櫂くんがいる。
優しく、頼りになって、自信があって。
だけど、やはり悩んでいる分、同じ明るい笑顔にも、どこか深みやあつみをかんじさせて、配慮まで匂わせて、ちょっと、複雑でややこしくなってて、それに大人の包容力を感じる。ほんとの優しさ、ちょっとした余裕や甘さまでも。
彼はもっともっと素敵な人になっていた。
家も外も同じ櫂になっていく。
小さい頃から成長した大人の櫂がいた。