シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
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私は昔から押し黙って、動じない子だったから、弥勒と菜摘は一生懸命、いろいろとやらせてくれた。

『情操教育! 』

とか、

『柔らかい心! 』

とか

『情感! 』

とか騒いで旅行に行ったり、ピアノを習わせたり、絵を習わせたり、ダンスを習わせたり。

それと、思考力をつけて、共感したり、他人の気持ちの機微が理解できるために、とかで、勉強も熱心にやらされたので、わりと勉強も出来る。

だからかな、そのおかげかな、
それとも、元々の気質かな。

わたしは割と感が鋭くて、人の気持ちにも聡い。能天気なのにね。
ほとんどの同級生は、全部が透けて見えてしまって、何の興味もわかない。

女の子は好き。

菜摘も好き。

でも、櫂や弥勒、それに不動おじさん、なんかは、ほんとにちょっとアレだな、と思う。
あの人たちに共通しているたった一つのいいところは、顔がいいぐらい。

弥勒は菜摘が好きなことばっかりだし、不動おじさんはなんていうか、的外れなのにその主張が強いし。
櫂はあんな赤ちゃんなのにオレ様だから。
みんな何か言い出したら、またかー、って残念な人たちだな、と思う。

まぁ優しくて愛情深いけどね。

あんなふうに、自分を主張していて、圧倒的なかんじは好みで言えばわたしの好みではない。

もっと⋯⋯

なんて言うか⋯⋯

オレがオレがじゃなくて、当たり前にそこにいる人がいい。
いるのかいないのか、わからないぐらいに、空気に溶けてるようなそんな人。
だのに存在感のある人。

その空気に惹かれちゃうような人。

そんな人に包まれて、一緒に溶けたみたいに過ごしたい。
理解し合って、何日でもじっと過ごしたい。

いろいろ心配したくない。

次から次へと、色々なことが起こったり、そのたびに必死になりたくない。
もっと、ゆっくり、一定に、じんわりと、世界を味わいながら、時間なんて忘れて過ごす。

理想。


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