シークレットベイビー② 弥勒と菜摘
先日実家で、不動と弥勒の父親の誕生日会を、家族で集まって祝った。
櫂は小学生5年生。
「実は、学校でうまく行ってなくて不登校になってて」
とみどりさんが話し出した。
食後に、おじいちゃまとおばあちゃまがソファーで旅行のビデオを見はじめて、不動とみどりさん、弥勒と菜摘が、コーヒーを飲みながら机についたときだった。
《お金持ちだから、金で解決できると思ってる》と反感をうけたそうだ。
《何でも思い通りにする》と。
学校で嫌われたのは結構ショックを受けたようだ。
シッターさんにも反抗して暴れて、わざとではなかったが、怪我をさせてしまったそうだ。
「お見舞金ははずんだからか、子供のした事でわざとではないし、と心よく許してもらえたけど。
そういう問題じゃないわ」
不動さんも、
「何度も慰謝料を払うなら、ハワイの2軒目を手放すことになるぞ」
どんだけ払ったんだろ⋯⋯ この人たち⋯⋯ 。
ハワイの2軒目って⋯⋯ 何⋯⋯ ?
2人は、一子と外で遊ぶ櫂を見ながら、ため息をついている。
菜摘は詳しく聞こうと思って、
「不動さん、」
と声をかけたら、
「おい! やめてくれ! その呼び方は! 」
「? 」
横で弥勒がフフと笑っている。みどりさんも笑った。
「あ、ごめんなさい⋯⋯ 」
と菜摘が謝ったら、
「いや、すまん」
と不動が頭を垂れる。
横でみどりさんが、
「ごめんなさいね、菜摘ちゃん。
ふふ、この人ね、
『どうですか? 不動さん? 』
って声をかけられて、一緒にたまたま横にいた人が、
『地価が上がりましたからな、少し持ち直して⋯⋯ 』
って話はじめて、ふふ、不動産ですって、ふふ」
横で弥勒も笑った。
「昔から割とあったよな、そのくだり」
あ、不動さんで不動産なんだ、うわ、思いもよらなかった。
「だがな、石動不動は、ものすごく画数もいいんだぞ! 名前診断なんてされてみろ! これ以上ない画数だ! 」
「はいはい」
クスクスとみどりさんが笑う、大きな花が咲いたみたいだ、活発で弾けそうな魅力のある人だ。
こんな大金持ちの家の子供時代は、たしかに周囲の子供達との関係が難しいかもしれない。普通にしていれば、出てくる単語が違うし、弥勒だって初めに菜摘の部屋を見た時、彼からしたら貧乏すぎて狭すぎて、いったい何があったんだ? なんて言ってたな⋯⋯ 。
今だって、さらっとシッターさんだの、ハワイの2軒目だの言ってた。
「櫂くん、どうかされたんですか? 」
と菜摘が話を戻して聞いた。