春は微かに








「ねえ先生、相談なんだけど」



私が高校生だった時。その頃、私は上辺だけの友達関係にうんざりして教室に居心地の悪さを感じていた。だから、休み時間は決まってあの人がいる英語科準備室で過ごしていた。




「またかよ。お前、人生相談ばっかだな」

「先生しか答えてくれる人いないんですぅ。ね、いいでしょ?」

「…はいはい。今日の相談は何ですか九条さん」




彼からは、いつもシトラスの香りがしていた。




「私、この先どう生きるのが正解だと思いますか?」




道に迷ったわけではない。特別大きな闇を抱えていたわけでもない。学校生活に嫌気がさしていたのは事実だったけれど、別に死にたいとは思わなかったし、家族とも良好な関係を気づいていた。



「これまた大きな相談だな」

「だって思いません?1度きりの人生、失敗したくないよ」


ただ私は、彼の答えが知りたかっただけなのだ。



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