春は微かに






英語科準備室を訪れた私が 先生に持ちかける話は決まって人生相談で、答えが出しにくいものばかりだった。


時には嘘をつくことのメリットを問い、時には泣くことの意味を問いた。人が恋をする理由だって問うたことがある。


面倒な生徒であることは自覚していた。困ったように眉間にしわを寄せる先生に、いつも心の中で謝っていた。

けれど、それでも辞めなかったのは。





『人はどうして恋をするんだと思いますか』

『お前、まじでなんでいつもそんなことばっか考えてんの?』

『好奇心旺盛な時期なんですよ。ねえ、先生はどう思う?』

『どう思うってなにが』

『だから、恋をする理由。欲求を満たすため?恋人がいる自分に酔うため?』

『うーん……まあそれもあるだろうな』




彼がくれる答えはいつも私が思い浮かべていた意見とは違っていた。それでも、彼は私の答えを1度たりとも笑ったり否定したことは無かった。



​──お前の考え方も良いな、じゃあこれはどう思う?この場合はどうする?なるほど、お前は凄いな、



答えを共有してようやく、たどりついた答えに納得する。私は、あの瞬間が好きだったのだ。


< 4 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop