春は微かに







『俺は、人が恋をするのは寂しいからだと思う』

『寂しいから……、』

『ん。人間はきっと誰しも寂しがり屋な一面があって、知らず知らずのうちに人を求めてるんだ。1人が好きだって言ってる人だって、なんだかんだ誰かしらと関わりがあるだろ?』

『たしかに』

『その寂しさを誰に埋めてもらいたいか。そう思う感情こそが恋なんじゃねえかなあ。知らんけど』

『知らんけど、は禁止です。テキトーに言わないでください』

『テキトーじゃねえよ。アイマイだから、知らねーんだ』




誰も知らない正解を、先生だけは知っているような気がしていたのだと思う。




「九条」



彼は私の名前を呼ぶと、机の中からフルーツ飴を取り出してこちらに投げた。慌てて手を出して受け取れば、「ナイスキャッチ」なんて言いながら自分も飴を口に含む。いつもそう。英語科準備室で食べた飴の数は、私が相談した件数に比例する。




「お前がどう生きるかなんか知らねえけど。失敗したくないなら、失敗を恐れんじゃねえぞ」



彼の言うことなんて大抵わからないことばかりなのに、そのわけのわからない答えに私は首をひねる。


「いいか?よく聞けよ、九条」


それが、先生が回答を始める合図だった。



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