アンチテーゼを振りかざせ
男はそのまま、黙って真っ直ぐに私を捕らえる。
名前を呼ばれてからずっと、心臓が慌ただしく動く感覚があって、逃げるように私が先に視線を外した。
「なんで、来ないの。」
だけど、それを許さないとばかりに直ぐに言葉を放つ男の声は、いつもよりどこか鋭い気がする。
「……なんでって、」
「コンビニに行くのは、
紬のルーティンに入ってたんじゃ無いの。」
「……、」
私は、あの日から1度もコンビニを訪れていない。
元々毎日行ってたわけでも無いけれど、1週間で1度も行かないことは、今までに無かった。
“_____梓雪。“
だけどあの光景を思い出すと、どうしても足は止まる。
この男がいつシフトに入ってるかどうかなんて知らない。
でも、もし出会ったら。
その続きを考えたく無くて、掻き消すように仕事後に干物化しても部屋で過ごす日々だった。
「あの日、休憩中も結局来なかったし、その後も。
仕事が忙しいのかと思ってたけど。
…さっきの電話、男?」
今日出会ってからずっと、男の声は瞳に負けないくらい鋭いままだ。
いつもの揶揄う様子なんて微塵も無くて、そのことに余計に胸が、ジリジリと焦がされる。
「……関係、無いでしょ。」
突き放す類いを選んだくせに、少し震えて頼りなく夜に落ちた言葉。
男は体勢を変えないままに、また口を開く。
「まさか、ビールも辞めたとか?」
「、」
「この間、言ったよな。
"カルピスサワー"ばっかりは飽きるって。
そいつは、紬が本当に好きなものを我慢しなきゃいけない奴なの?」
南雲さんが、そんなこと要求する人じゃ無いことはもうとっくに分かってる。
____"私が"、言えないだけだ。