アンチテーゼを振りかざせ
「あれから、あの居酒屋でも会わないしちゃんと挨拶も出来てなかったよね。」
微笑みまで美しい彼女は、コツ、と白のショートブーツを鳴らせて私に近づく。
スマホを握りしめたままの私は、突然の再会にうまく言葉を乗せられない。
「改めまして。朝地 八恵です。」
よろしくね、そう言う彼女に私は名乗る必要があるのだろうか。
今までも、これからも、何も関係が無いのに?
失礼な反応だとは分かりながらも、困り顔と顰めっ面の間の滑稽な表情しかできない私をしばし観察した彼女は、
「……私、梓雪の好きな人と仲良くなりたいんだけどな。」
そう言って少し眉を下げた。
予想もしなかった言葉に驚きで目を見開く。
すると、目の前の彼女もぱちぱちと目を瞬いて「なに、変なこと言った…?」と不思議そうな顔をしている。
「…意味が、分かりません。」
「え、なんで?」
「…貴女は、彼女じゃ無いんですか…?」
弱々し過ぎるトーンでそう問いかけると、彼女はやはりブラウンのアイシャドウが綺麗に乗った瞳を何度か瞬きさせて、その後は優しく細めた。
「なーるほど。
なんだ、あいつもう振られたのかと思って焦ったわ。」
そう言って何かを確認したように、割と豪快に笑う彼女の意図が分からない。
そして再び、薄い唇に弧を描いた彼女は、
「_____紬さん。ちょっと顔貸しなさいよ。」
その華奢なスタイルと綺麗な微笑みに全く似合わない物騒な言葉を私に投げた。