アンチテーゼを振りかざせ
この女は、いつも素直じゃないくせに予期しないところで本音をぶつけてきて、それら全て、確実に俺を刺激してくる。
腕を掴んでいた手を離すと、
「ご飯、どうする?」
と再び可愛い笑顔を携えて、尋ねてきた。
俺はその質問には答えず、
紬がつけている大きなメガネを徐に外す。
「え、なに。」
「邪魔だから。」
表情に疑問の色が濃く乗った女は、無防備なまま俺を見つめていて、実は本当に隙だらけで、心配になる。
そのままぐ、と後頭部を引き寄せて柔らかい唇を啄むようにキスを1つ落とすと同時に、すぐにその身体が強張るのが分かった。
「……ご飯は。」
唇を離しても、近い距離のまま視線を絡ませると、紬はちょっと掠れた声でそう尋ねてくる。
…まだ聞いてくんの。
照れ隠しなのか、それが妙におかしくて思わず笑った俺は、その華奢な腕を引く。
「それよりこっち。」
「え…!?」
真っ赤な顔のままの紬をクローゼットのすぐ隣の寝室に連れ込んで、再び唇を重ねながらベッドへと誘うとスプリングがキシ、と鳴いた。
「慣れないなら、協力するけど。」
「……どういうこと。」
俺の下で、そう聞き返してくる紬のおでこにもキスを落とす。
「俺から可愛いって言われるの慣れないんでしょ。
じゃあ慣れるまでずっと、言い続けようかなって。」
「……ほ、他にも方法あると思うけど。」
そのまま首筋にもキスをすれば、恐らく意図はせず、でも確かにびく、と反応しながら紬は身を捩った。
そして、結局着替えることが叶わなかったトレーナーの下から手を侵入させようとした俺の腕を、弱々しく掴む手。
「…これは、抵抗のつもり?」
なんか思ったより挑発的な言い方になったなと自覚すれば、やはり紬は睨むように俺を見ていた。
「紬が嫌なら、しない。」
別に無理強いしたいわけでも無いし、なんせ俺はこの女が可愛いのでそれだけで満たされる。
……毎回我慢するのは、無理だけど。
「梓雪の言い方は、いっつもずるいからムカつく。」
組み敷かれた状態で、吐き出される言葉に自然と笑みが漏れる。
「俺の言い方が嫌な時は、
いつでも否定してくれて良いけど?」
「……完全に否定したく無いから、困るんじゃん。」
その答えに、ふ、と笑って。
拗ねて少し尖らせた可愛いらしい唇に、自分のものを荒々しく重ねた。