アンチテーゼを振りかざせ
メッセージを送るまでは、手汗がとんでもなかったけど。
送ってしまえば、もうどうにでもなれって気持ちにもなってきた。
…それでも、気になるのは当然のことで。
自分の部屋にたどり着いて、カゴに溜まっていた洋服をとりあえず洗濯機に放り込む。
色気皆無の服装に着替えて、気休めにテレビを付けてみたけど、自分の好きなお笑いコンビが司会の番組なのに、あんまり上手く頭に入ってこない。
男とのトーク画面は、私のメッセージが送られたままで既読もついていない状態だった。
歓迎会の最中であるあの男が、きっとこの言葉を見るのはもっと後だろうから。
「…よし。」
いつもの干物姿のままに、いつものコンビニへと買い出しに出かけた。
◻︎
「ありがとうございましたー」
覇気のない店員さんの声を後ろで流しながら、コンビニを出る。
「…買い過ぎた。」
いつもなら、缶ビールとサキイカ、それだけなのに。
今日はあの男が好きかもしれないジュースとか、お菓子とか。
その前に、疲れてるかもしれないから栄養ドリンク?
というか梓雪は、お酒多分あんまり強くないから、なんかウコンとかそういうのの方が良いのかな。
でもそれって、お酒飲む前に飲むやつ?
色々とぐるぐる考え始めたら、きっと私のコンビニ滞在時間の最長記録を更新した。
手では持ちきれないから、レジ袋まで買う羽目になってしまった。
割と重量のあるそれを持って、苦く笑いながら再びマンションへと足を向けた時。
「______1人でフラフラ夜に
買い出し行くなって言ったじゃん。」
「、」
すぐ側で聞こえてきた声に、歩みなんてすぐ止まる。
見開いた私の瞳は、綺麗な三白眼とかち合った。
「……なんで、?」
声が震えてしまうのは、仕方ないって思って欲しい。
「…誰かさんが急にメッセージ送ってくるから。
"俺、お饅頭食べないとなんで"って抜けてきた。」
「…なに、それ」
「こっちの台詞だわ。」
やっと見慣れてきたスーツ姿の男が、長い足を使ってすぐ目の前まで辿り着く。
「……既読、ついてなかったのに。」
私より随分身長の高い男を見上げる形でそう言う私は、もうとっくに視界が揺れ始めている。
「つけるより先に、走って帰ってきた。」
「………私のために?」
そう問えば、甘く優しく表情を和らげた男にあっさり引き寄せられてそのままぎゅう、と抱き締められた。
「…そうだよ?
俺、割と足速いから
紬のとこまで帰ってくんのなんか、余裕。」
足が速いなんて、そんなの前から知ってる。
でもうまく返事が出来ない。
軽い口調ばかりの男の温もりに意図せず触れた途端、堰を切ったようにポロポロ泣けてきてしまう。
恥ずかしさを隠したくて、男のジャケットをぎゅ、と掴んだ。
「…あんま可愛いことばっかすんな。」
溜息混じりの言葉が聞こえたと同時に、梓雪は私との距離をより縮めるかのように、強く抱きしめ直してきた。