アンチテーゼを振りかざせ
「…梓雪。
あのお饅頭の愛は、多分、修行が必要。」
「……どういうこと。」
"どうしたら、ほむさんみたいになれますか?"
"えー?総務20年以上やれば、かな。"
"……小娘が生意気言いました。精進します。"
「総務の仕事、20年以上やらないと駄目かも。」
「…話が掴めないけど。」
今日のほむさんとの会話を思い出して、笑いながらそう言うと、梓雪の眉間の皺がより深くなる。
「あのお饅頭をくれたのは、私が尊敬してる人で。」
「うん。」
「ほむさんって言う、
お孫さんを溺愛してる、私の師匠みたいな人。」
「………は?」
ぽかん、と目を丸くしている男に胸がきゅう、と鳴る。
こんな気持ちを抱いたこと、今までに一度も無い。
笑いながら今度は私から男を抱きしめれば、自分の中で理解を追いつける時間が必要だったのか、暫しの沈黙の後、頭上で大きな溜息が落っこちた。
「……かっこ悪。」
「梓雪、可愛いね。」
いつも言われっぱなしだからと、そう呟けば悔しそうな舌打ちの後、腰を追って顔を近づけてきた男にちょっと強引に唇を奪われる。
「…あのお饅頭は、自分の大事な人に、何か話したい時の誘うきっかけにしてって、貰った。」
_____私が誘いたいのは、いつも梓雪に決まってる。
本音を伝えるのは恥ずかしくて、堪らないけど。
"自分が言われて嬉しいって思える言葉なら。
少しだけ、勇気が出ます。”
私も、この男をいつだって喜ばせたいよ。
へら、と情けなく笑ってなんとかそう言えば「いや、どんだけ煽んの」と不満げに目を細めて。
「……嬉しくなかった?」
「その質問は流石に確信犯だろ。」
ふふ、と思わず笑う私に、男も観念したかのように破顔して、優しくまたキスをした。