アンチテーゼを振りかざせ




以前にもお誘いいただいていた、ちひろさんと、ちひろさんの"親友"かつ"同期"である島谷(しまたに) 亜子さんとの飲み会が数ヶ月越しに実現した。




「初めまして、島谷 亜子です。
ちひろの同期で、私も総務の仕事やってます。

ずっとお会いしたかったんです。」

「初めまして、保城 紬です。
…私に、ですか…?」


同じ職種だからだろうか。
待ち合わせたいつもの居酒屋の前で、そう一人で解釈しつつ挨拶をすると、彼女は形の整った唇をきゅ、と上げた。


「はい。
あのくそ童貞に恋されてた時の紬さんのサッパリした感じ、ちひろから話聞いててすごい好きで…」

「あ、亜子さん!?」

この人何言ってんの!?という驚愕の表情を向けるちひろさんを全く無視してこちらに微笑む彼女のど直球に、私も面食らった。

くそ童貞とは、瀬尾さんのことだろうか。

なかなか酷い呼び名を持っているのだなと同情してしまった。



「ちひろがあんな風に褒めて、焦って、ヘタレて。
大きな影響与えてた元ライバルに、私も会いたくなりました。」


「………今は、ただの友人ですけど。」

__どちらかと言うと、少年漫画寄りの暑苦しい方の。



いつかの会話を思い出しながら、気恥ずかしさを隠してそう言えば「やっぱ好きだわ」と亜子さんは愉快に笑った。

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