アンチテーゼを振りかざせ



季節はすっかり春になって、我が総務部にも新しい風は……特に吹いては無いけど。

課長は相変わらずだし、ほむさんは癒し。

だけどそういえばこの間、「課長の扱い方が上手くなったね」とほむさんに揶揄いながら言われた。



リニューアルは無事に完了して、とても素敵なオフィス環境で働かせてもらっている。

そして完了したということは、プロジェクトチームも解散するということだ。

最後の挨拶にうちのオフィスへ来た時、ちひろさんはこちらの涙が引っ込んでしまうくらいに私の前でこっそり、ボロ泣きしていた。



その時を思い出しつつ、ふ、と笑みが漏れる。


「……ちひろさん。
1人個室、使わせていただいてます。
いつも争奪戦になるくらいです。」


生ビールの泡が少しへたってきた頃、そう呟くと彼女はふわりと微笑んで「紬さんに言われると泣いてしまう。」と、涙が滲み始めていく。


そのまま、おしぼりでまた拭こうとするから咄嗟にハンカチを差し出すと、

「どっちが年上なのよ。」

と、亜子さんが呆れたように笑った。




◻︎


そこからお酒も進んで暫くして。


"……あーーー、
まじで良い男、空から落ちてこないかな。"


アルコールを良い感じに取り入れた亜子さんがそう管を巻き始めたところで、冒頭に戻る。



「だって紬さんも、今はスーパーリア充なわけでしょ?」

「…す、スーパーリア充……?」

そういう風に問いかけをされると、そうです、と肯定はしづらくて逃げるようにまたビールで喉を潤す。

スーパーリア充って何だろう。



「久箕君、元気ですか?」

「…はい。"枡川さんによろしく"って言ってました。」


もうすっかり顔の赤いちひろさんは、嬉しそうに「そっかあ」と笑う。


「その久箕君とやらは、どこからやって来た人?」

「…え?」

「…何かの知り合い?」

「……あ、知り合いとかではなく。
此処で働いてた時に声をかけられたというか…?」

「え、なんて!?店員からアプローチ!?」


何その展開、と若干興奮気味の亜子さんに圧倒される。

そしてその言葉に違和感が募る。



"_____清楚つくりこむの、やめたの?"


あれは、アプローチ、なの?
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